51、ホワイトプラネット  (8点)

2006年

監督/ティエリー・ラコベール、ティエリー・ピアンタニーダ、音楽/ブリュノ・クーレ

 極北に生きる動物達を美しい自然の中で描き出したドキュメンタリーの傑作。猛吹雪の中に佇むジャコウ牛、大湿地帯を埋め尽くすカリブーの群れ、伝説の海獣・一角、マッコウクジラの親子、波間に漂う白イルカの一群、ケルプの林を優雅に泳ぐ大だこ、微細で優雅なクリオネ、浜辺に寝そべるセイウチたち、断崖絶壁に巣を作る海烏の集団・・・そして何よりも気高く美しいのは、地上最大の動物=北極白クマ!彼らは北極圏が凍結しなくては狩りが出来ないのだが、地球温暖化で年々北極の氷が少なくなっており、生息地域が狭まって絶滅の道を辿りつつある・・・ラストで溶けだした氷原を彷徨う白クマに何とも言えない哀愁感が漂い切ない思いが断ち切れない。とにかく全てのシーンが美しい、そして音楽も印象的な、海洋ドキュメンタリーの大傑作です。

 

52、チェイサー  (7点)

1978年

監督/ジョルジュ・ロートネル、撮影/アンリ・ドカエ、出演/アラン・ドロン、モーリス・ロネ、オルネラ・ムーティー、ミレーユ・ダルク、ステファーヌ・オートラン、クラウス・キンスキー

 ドロン、ロネ、そして撮影にドカエとくれば、懐かしい「太陽がいっぱい」(1960年)のトリオの18年ぶりの再結成(?!)で、もうこれだけでジーンときそうですが、それは置いといて・・・。

 ドロン演じる実業家は、親友の国会議員から彼の政治生命を断とうとした政界大物を殺害したと告げられ、アリバイを偽証するが、やがてその親友も殺される。大物の残した政財界の悪事を記録した文書を手に入れた主人公に次々と誘惑と危険が迫るが・・・

 フランス映画にしては珍しく軽快なタッチのハードボイルド風フィルムノワールで、30年以上も前の作品という古さを感じない。CGを使わないカーチェイスもなかなかである。巨悪に敢然と立ち向かうドロンがなんとも格好いい。政財界の腐敗は、洋の東西を問わず今も続いているが、ドロンも当時のフランス政財界の腐敗に怒りを覚えたのであろうか?

 全編、スタン・ゲッツのサックスが流れ、小粋な雰囲気を盛り上げている。「死刑台のエレベーター」のマイルス・デイビスを想起させる。

 

53、鉄道員(ぽっぽや) (6点)

1999年

監督/降旗康男、撮影/木村大作、出演/高倉健(=佐藤乙松)、小林捻侍、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、田中好子、奈良岡朋子

 廃線予定の幌舞線の終着駅・幌舞の駅長を務める根っからの“ぽっぽや”乙松も定年間近。正月、慰労に来た同期の親友と酒を交わすにつれ、僅か2歳で死んだ愛娘や不意の病で往った妻のこと、そしてこれまでの様々な出来事を思い出すが、或る夜不思議な少女が現れて・・・

 健さんが演じると、えらい立派な“ぽっぽや”に見えてくるが、実際は生真面目にコツコツと鉄道の業務を重ねてきただけで、実直さがとりえの平凡な(家族の不幸を除いては)鉄道員の人生劇場であり、その様は健さんというより、笹野高史が演じたほうが相応しいというべきか。(それでは興行的に成り立たないが・・・)

現在と様々な時点の過去がフラッシュバックして混乱するが、淡淡とした一生を時系列的に描けば、何とも単調なストーリーになるので、観衆を惹きつけるにはこうした演出しかなかったであろう。

「謎の少女」は、そうと分かっていても、やはり切なさでいっぱいになる。広末涼子の不思議な存在感が光っており、このキャスティングが絶妙。それとやはり木村大作のキャメラワークが抜群で、この単調な大作を盛り上げている。

 

54、シークレット・ウインドウ   (4点)

2004年

監督/デヴィッド・コープ、出演/ジョニー・デップ、ジョン・タートゥーロ、マリア・ベロ。ティモシー・ハットン、チャールズ・ダットン

 妻と離婚協議中で、湖の傍の別荘で暮らす作家の前に或る日、「『シークレットウインドウ』という作品は、俺の作品の盗作だ!」という男が現れて、それから次々と不可解な事件が起き、主人公は困惑していくのだが・・・

 原作がスティーヴン・キングというから、“サイコホラー”ということであるが、それにしても酷いシナリオだ。例えば、善意の二人が殺される理由は全くもって不可解。“サイコ”だからといって“なんでもアリ!”ということにはならない。エンディングもグロテスクの極み。

 デップの演技だけが取り柄で、デップだから観た!という人にはマァ納得出来るかもしれない。

 

55、ザ・ハリケーン  (8点)

(2000年公開)

監督/ノーマン・ジェイソン、出演/デンゼル・ワシントン、ヴィセラス・レオン・シャノン、デボラ・カーラ・アンガー、リーヴ・シュレイバー、ジョン・ハナー、ロッド・スタイガー

 人種差別の強かったニュージャージー州で育ち、1966年にボクサーとしての絶頂期に無実の罪で逮捕され、18年間も獄中にありながら不屈の精神で釈放を勝ち取ったルービン・“ハリケーン”・カーターの実人生を描いた作品。ジェイソン監督の深い問題意識と、これに応えたデンゼルの熱演が見事で、素晴らしい出来栄えとなっている。(デンゼルは、「トレーニング・デイ」よりも本作品でオスカーを受賞すべきであった!)

 前半はカーターの波乱の半生を史実に基づいて丁寧に描いて充実しているが、(その分時間が足りなくなったか)後半はやや失速の感が否めない。無実を勝ち取る連邦裁判所での始終も流し気味で、この法廷闘争部分(=弁護側・検事側・裁判官の間のやりとり)をもう少し丁寧に描けば、勝訴の感動がもっと盛り上がったであろうにと惜しまれる。

56、MR.インクレディブル  (9点)

(2004年)

監督/ブラッド・バード、声の出演/インクレディブル=クレイグ・T・ネルソン&三浦友和、夫人―ホリー・ハンター&黒木瞳、娘ヴァイオレット=サラ・ヴォーヴェル&綾瀬はるか、シンドローム=ジェイソン・リー&宮迫博之、フロズン=サミュエル・L・ジャクソン

 ピクサーのCGアニメ。ヒーローとして“やり過ぎ”で世間の非難を浴びて、閉門蟄居状態のスーパーヒーロー一家に謎の魔の手が伸びる。絶対の危機にファミリーが結束して反撃に出る・・・どちらかと言うと大人向けのCGで、デフォルメされたキャラクターが秀逸。特に主人公が勤務する保険会社の上司と、コスチュームデザイナー(=モデルはコシノ・ジュンコ?!)が傑作で思わず笑っちゃいます。

 奇想天外なストーリー運びと、ダイナミックでスピーディなCGが素晴らしい。謎の島の緑濃き密林の美しさは最高!

 

57、クレオパトラ  (6点)

(1963年)

監督/ジョセフ・L・マンキウィッツ、音楽/アレックス・ノース、出演/エリザベス・テイラー(クレオパトラ)、レックス・ハリソン(シーザー)、リチャード・バートン(アントニー)、ロディ・マクドウォール(オクタビアヌス)、ケネス・ヘイグ(ブルータス)

 ハリウッド映画が絶頂期にあった時代に製作されただけあって、豪華絢爛。特にクレオパトラがローマに行進するシーンは圧巻で、どんな映像も敵わないほど豪華で見ごたえがある。そしてリズ=クレオパトラも眩しいばかりに美しい。

 しかし、こうした歴史スペクタクルは、女性を中心に据えると、愛だの恋だのが中心になって、壮大かつスペクタクルなドラマでなくなってしまうのが通例であるが、この作品も(巨匠マンキウィッツをもってしても)、その例外とすることはできなかった。

 シーザーとクレオパトラ、クレオパトラとアントニーの恋愛模様が長尺の大半を占め、スペクタクルな戦闘シーンは少ない。唯一のアクチウムの海戦の描き方も凡庸で迫力に欠ける。去るクレオパトラを見て、部下を見捨てて追いかけるアントニー・・・なんていうのは、情けなくて、これでは二人の愛にシンパシーなど感じることなど出来ないではないか!マンキウィッツ監督よ、もう少しシナリオのひねりようがあったでしょうに! まあ豪華度で+1点。

蛇足: ロディ・マクドウォールが知的で冷静&冷酷なオクタビアヌス像を作り上げて好演している。迫力あるセリフ回しもなかなかである。(因縁といえば、この作品の20年前の1943年に「家路」=これは名犬ラッシーの映画版第1作=にロディが主演し、リズが共演している。)彼はその後低迷し、「猿の惑星」のコーネリアス役が代表作と言われるが、役者としては、このオクタビアヌス役が最も素晴らしいと言えるのではないか!

58、モンゴル (8点)

2008年公開)  ロシア、ドイツ、モンゴル、カザフスタン合作

監督/セルゲイ・ボロドフ、衣装/エミ・ワダ、出演/浅野忠信=テムジン)、スン・ホンレイ(=ジャムカ)、ホラン・チョローン(=ボルテ)

 父親を他部族に殺されたあと、部下に資産を奪われ囚われの身となったテムジンがジャムカと知り合い、許嫁のボルテを娶り、更なる苦難の末、モンゴルを統一するまで・・・妻ボルテとの夫婦愛を縦軸に、盟友にして宿敵となるジャムガとの抗争を横軸に据えて大英雄の半生を描いています。

 テムジンが囚われてばかりで、もう一つ勇猛さに欠ける感は否めませんが、なによりも内モンゴルや新疆ウイグル自治区にロケしたモンゴルの光景の描写が素晴らしい。本物の大自然のみが持つ美しさと迫力に圧倒されます。メルキト族に奪われたボルテを取り戻す闘い、ジャムガとの戦闘は、力任せのぶつかりあいが凄まじい迫力で、そして最後の雌雄を決する大会戦は壮大なスケールで描かれており、これは申し分なしです。

 モンゴルの大英雄に日本人俳優でいいのか?と思いましたが、全編モンゴル語で通した浅野の力演はその心配を吹き飛ばして優しくて誇り高いテムジン像を作り上げています。また敵役ジャムカのスン・ホンレイの存在感が作品に厚みを加えています。バックの哀切に満ちた民族音楽も作品にピッタリです。

 なかなかの作品だけに、日本公開では、「モンゴル」というタイトルはひと工夫あってしかるべきだったでしょう。

 

59、夕陽のギャングたち  (9点)

(1972年公開)

監督/セルジオ・レオーネ、音楽/エンニオ・モリッコーネ、出演/ロッド・スタイガー、ジェームズ・コバーン、ロモロ・ヴァッリ、マリア・モンティ。リク・バッタリア

 冒頭が、なんと荒野の真っただ中でひげ面・太っちょの農民が小用を足すシーン、そしてロングにすると、砂塵を撒いて駅馬車がやってきて、懇願して彼が乗りこむと・・・馬車内は豪華絢爛のサルーンで、紳士淑女が贅沢な食事の真っ最中〜〜主題とは一見無関係なシーンを延々と思えるほど丁寧(執拗?)に描いて“レオーネ・ワールド”へ入っていく。

農民=ファンは、実は山賊の頭、金持ち連中から金品を巻き上げて立ち去ろうとすると、そこへオートバイに乗って現われたは、アイルランド革命の闘士=ジョン。偶然出立ったこの二人が紆余曲折を経てメキシコ革命へと身を投じていく・・・。

 スタイガーとコバーンががっぷり四っつに渡り合い、160分近くになんなんとするレオーネ監督の大傑作。男の友情とロマンを活写したストーリーとともに、橋の爆破シーン、革命軍の大虐殺、ラスト近くの軍用列車大爆破などの壮大で迫力あるシーンは映像的にも素晴らしい。

スタイガーは本来のイメージとは違うものの、野卑で強欲な(それでいてどこか憎めない)山賊を熱演。一方革命の闘士を演ずるコバーンはなんとも格好よく、これは彼の最高作品と言えよう。

“♪ションションショ〜ン〜〜♪”と、ハードな男の世界の映像のバックに流れる甘く切ないメロディ・・・これもまたモリコーネの最高傑作と呼ぶに相応しい素晴らしい音楽で、まさに映像と音楽が一体となって作品の完成度を高めたといえよう。

ところで、私はスタイガー演ずるファンを見て、「続・夕陽のガンマン」のイーライ・ウォーラックを想起したが、実際、レオーネ監督はウォーラックにこの役を依頼したものの、彼のスケジュールから断念してスタイガーに変更したそうな。ウォーラックなら徹頭徹尾、野卑・強欲・卑怯な山賊像になったであろうから(ウォーラックさん、失礼・・・飽くまで「賊・夕陽のガンマン」からの連想です!)次第に憎めなさを醸し出したスタイガーで結果オーライではないでしょうか!

原題は、当初レオーネが考えた「ONCE UPON A TIME...THE REVOLUTION」、次に彼がこだわった「DUCK YOU, SUCKER」(=「伏せろ、バカ野郎」・・・この傑作が欧米でヒットしなかったのは本タイトルのせいだとも言われている)、イタリアでは「GIU LA TESTA」(=伏せろ)、そして英国では「A FISTFUL OF DYNAMITE」 と様々で、そして日本では「夕陽のギャングたち」となったが、「夕陽」を使うのはいいとしても、それなら「夕陽の革命野郎たち」としてほしかった!

60、ターミネーター4   (7点)

  

(2009年)

監督/マックG、音楽/ダニー・エルフマン、出演/クリスチャン・ベイル(ジョン・コナー)、サム・ワーシントン(マーカス・ライト)、アントン・イェルチン(カイル・リース)、ヘレナ・ボナム=カーター(セレナ・コーガン)、

 スカイネットが人類に反乱を起こした“審判の日”2018年、人類は抵抗軍を組織し、ジョン・コナーはその中核として働く・・・「T2」の世界を踏襲して、ターミネーターシリーズファンを満足させる仕上がりになっていると言えよう。(終盤で、シュワちゃんらしきが「T1」のイメージでチョコッと顔を出すのもご愛嬌で、これは監督のTファンへのサービスでありましょう。)

 敵役ロボットや自動オートバイの動きも滑らかで、CGの出来栄えは上々ですが、所謂「ターミネーター」としての怖さ(例えば第1作のシュワちゃんや2作目の液体金属人間)は今ひとつです。

 もうひとつ、本シリーズでは「タイムパラドックス」がひとつのテーマですが、本作=2018年の時点において、ジョンが青年で、父親であるカイルが少年で、どうして同時存在するのか??これがどうにも理解できません。

 エンディングは次作を暗示していますが、いずれにせよ、スカイネットと人類の最終戦争は2029年ですから、次は 壮絶にして完璧なエンディングへと導いてほしいものです。

蛇足: 冒頭と、終盤にちょっとだけ顔を出す、ヘレナ・ボナム=カーターが流石の存在感を見せて印象深い。

 

61、グラン・トリノ   (8点)

  

(2008年)

製作&監督/クリント・イーストウッド、出演」/イーストウッド(ウオルト・コワルスキー)、ピー・バン(タオ)、アーニー・ハー(スー)、クリストファー・カーリー(神父)

 フォードの自動工を50年勤め上げ、デトロイトの郊外で暮らすウオルトは、妻に先立たれた孤独な老人。その頑固さゆえに息子たちからも敬遠されるが、自主独立の信念(?)を曲げず、神父にさえも悪態をつく。

 そんな彼の隣にモン族(ラオスの少数山岳民族)の一家が引っ越してきて、一家の姉・弟と次第に心を通わすようになるが、二人は同族のチンピラどもに執拗に狙われ、姉は陵辱されてしまう。

 二人に恒久的な安寧を確保するために、ウオルトは闘いに挑む。西部のガンマンでない彼が取った手段とは・・・。

 78歳になってなお傑作を世に送り続けるイーストウッドの秀作。過激な人種差別発言がポンポン飛び出すところはビックリさせられてしまうが、その一方でモン族姉弟との心温まる交流の丁寧な描写が、その過激さを救ってあまりある演出となっている。

 頑固な差別主義者であるものの、その一方で朝鮮戦争での行為に今も懊悩し、街中の悪事を看過できない強い正義感の持ち主であるという人間像を、鮮やかに描き出している。そして、なによりもチンピラとの対決で彼が取った手段が誠に秀逸で、じつに印象深いラストとなっている。

蛇足 : スー&タオ姉弟はじめ、皆殆ど無名の役者を起用しているが、それぞれが好演しているところは、イーストウッドは製作者としても敏腕といえる。特にスーを演じたアーニー・ハーは聡明で愛らしく、なかなか好感の持てる女優さんである。

62、アウトレイジ   (6点)

  

(2010年)

監督・脚本/北野武、出演/ビートたけし、新名桔平、三浦友和、加瀬亮、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗

 現代ヤクザの抗争を凄まじい暴力描写の連続で描いた作品。アナキーなアウトローの持ち味で出発するも、何をやっても世間から高く評価され、成功者となってしまい、最もらしいことを言わざるを得ない立ち位置になってしまったタケシが本来の立ち位置に戻りたくて製作した作品といえるが、妙に芸術ぶった作品などより、こっちのほうが足が地についているといえよう。ただし、内容は「仁義なき戦い」の二番煎じであり、独創性は「殺しの手口の多様性」のみともいえる。

 続編で深作監督を超えられるか? 巨匠タケシの真価が問われる。

蛇足 : 11人の役者はそれぞれワルの個性を発揮して好演。日本の俳優は皆ヤクザを演ずるとイキイキと光るのは何故だろう? いい人の代表みたいな三浦友和もなかなかの悪役ぶりなのだ!

 

63 マッケンナの黄金   (8点)

( 1969年)

製作/カール・フォアマン、ディミトリ・ティオムキン、監督/J・リー・トンプソン、出演/グレゴリー・ペック、オマー・シャリフ、テリー・サバラス、カミラ・スパーヴ、ジュリー・ニューマー、イーライ・ウオーラック、キーナン・ウイン、リー・J・コップ、レイモンドマッセイ、バージェス・メレディス、アンソニー・クエイル、エドワード・G・ロビンソン

 保安官マッケンナは老アパッチ・プレイリー・ドッグの銃撃を受け、反撃して彼を殺してしまう。残されたバッグの中には秘められたアパッチの黄金の在り処を示す地図があり、彼は以前その場所へ行ったことがある。そこへ無法者コロラド一味が現れ、囚われたマッケンナは黄金の在り処へと案内をさせられる。〜〜こうして大西部の荒野を進む彼らを、黄金探しにとり憑かれた市民達、奇兵隊、そしてアッパチたちが追跡し、黄金探しの旅が展開する・・・。

 西部劇にトレジャーハンテイングをミックスさせた冒険活劇であるが、なかなかの出来栄えで、特にラストの大崩落シーンの特撮は結構迫力があり、主人公の“死の体験”を徒労に終わらせなかったエンディグも小粋だ。

 封切り時にテアトル東京のシネラマの大画面で見たが、43年ぶりに見ても意外にも面白かった。冒頭のハゲワシが悠然と大空を舞い、ホセ・フェリシアーノの歌が流れるシーンは素晴らしい。クインシー・ジョーンズの音楽も秀逸。

蛇足:「アラビアのロレンス」で一気に国際的大スターとなった(私の大のお気に入りの)オマー・シャリフが、なんと西部の無法者を演じているが、なかなか様になっている。上記出演者で、イーライ・ウオーラックからエドワード・G・ロビンソンまで渋い俳優たちが総出演しているが、出番は少なく、登場したかと思ったら、一同あっけなく殺されてしまう。黄金に憑かれた男たちの性(さが)をもう少し掘り下げたら、ドラマに深みが出たであろうが、そうすると132分の上映時間がとてつもなく長くなったであろうからこれは無理な注文といえよう。

 こんなある意味でマニアックな西部劇を放映してくれたNHKに感謝!

 

64 エクスペンタブルズ   (7点)

    

(2010年)

監督/シルベスター・スタローン、出演/シルベスター・スタローン(64歳)、ジェイソン・ステイサム(43歳)、ジェット・リー(47歳)、ミッキー・ローク(54歳)、ドルフ・ラングレン(53歳)、テリー・クルーズ(42歳)、ランディ・クートゥア(47歳)、エリック・ロバーツ(54歳)、スティーヴ・オースティン(46歳)、カリスマ・カーペンター(40歳)、ブルース・ウイリス(55歳)、アーノルド・シュワルツネッガー(63歳)・・・年齢は製作時=2010年当時

 スタローン率いる凄腕傭兵部隊=エクスペンタブルズ(消耗部隊、或いは使い捨て部隊)は、ソマリア海賊からのの人質奪回を成功させた後、南米の島国ヴェレーナを支配するガルザ将軍抹殺の話が飛び込む。偵察に出掛けると島国を陰で牛耳っているのは元CIAのジェームズ・モンロー(=エリック・ロバーツ・・・ジュリア・ロバーツの弟)。あまりの危険さに話を断ろうとするが、モンローに敵対する将軍の娘が囚われの身となったことで、仲間を率いて島に急襲をかける・・・。

 スタローンが新旧のマッチョ俳優を結集して製作した痛快アクション編。豪華(?)キャスティングの故か、アメリカでは大ヒットしたらしい。まぁ、スタローンの尽力をレスペクトして、あまり深く考えずに見ると、アクションたっぷりで結構楽しめます。

招いたスター達の見せ場もたっぷりあり(例えばジェット・リーのカンフー・アクションやステイサムが飛行機の操縦席から上半身を乗り出して、敵の拠点を攻撃するシーン)、スタローンの監督ぶりにも及第点が与えられます。

蛇足

 不死身の(?)ノスタローンも齢60を超えると、さすがにアクションの切れ味に往年の冴えはなく、40代のステイサムやリーに敵わないのは已むを得ないかもしれません。敵の補佐役オースティンとの闘いでっも分が悪く、投げ飛ばされて背後の岩壁にしたたかに打ちつけられて背骨にひびが入り、金属を埋め込んだとか。その後の撮影が大変だったでしょうが、今後のアクションに影響がでないかと心配されます。

 しかしながら、スタローン、シュワちゃん(この当時はまだ州知事)、ウイリスが同じ画面で一緒になるなんて!・・・例えワンシーンでもマッチョ&アクション好きには涙の出そうなシーンであります。

 

65 十七人の忍者   (7点)

 

(1963年)

監督/長谷川安人、出演/里見浩太郎、近衛十四郎、大友柳太朗、三島ゆり子、東千代之介、花沢徳衛、加賀邦男、

品川隆二、和崎俊哉、薄田研二

 「駿河大納言・忠長に謀反の動きあり、その証拠を入手せよ」と阿部豊後守から密命を受けた伊賀三の組頭・甚伍左(大友)は配下の忍者とともに駿河に潜入するが、城には根来忍者・雑賀孫九郎(近衛)が雇われており、彼と伊賀忍者群との間に熾烈な戦いが繰り広げられる・・・。

 東映集団時代劇の嚆矢となった作品。池上金男(池宮彰一郎)の脚本が実にしっかりしており、忍者の戦いをリアリズムで描いて、従来の東映時代劇とは一線を画して、時代を経ても新鮮な輝きを失わない。大友の静、近衛の動ががっぷり四つに組んだ演技はさすがである。特に近衛の立ち振る舞いの颯爽さと殺陣の鮮やかさは見事。

 

66 ヴィクトリア女王 世紀の愛   (7点)

(2009年)

監督/ジャン=マルク・ヴァレ、出演/エミリー・ブラント(女王)、ルパート・フレンド(アルバート)、ポール・ベタニー(メルバーン卿)、ミランダ・リチャードソン(ケント公爵夫人)

 ウイリアム王に直系の世継ぎが無く、次弟の故・ケント公の一人娘ヴィクトリアが幼い時分から後継と見做される。母とその情人・コンロイは摂政として実権を握ろうとする一方、母の兄のベルギー国王レオポルドは婿を送りこんで影響力を確立しようと目論む。〜〜こうして陰謀うずまく宮廷にあって若きヴィックトリアは毅然と立ち向かい、メルバーン卿の助けとアルバート公子の愛を支えに、女王として国と国民のために尽くそうと歩んでいく・・・。

 原題が「ヤングヴィクトリア」で、その通り、長い女王の治世の初期の一部を描いただけで、ストーリーは些か平板ともいえるが、エミリー・ブラントが美しく気品と威厳に満ちた若き女王を好演し、これが本作品の成功の秘訣となった。女王とアルバートの愛はもっと掘り下げてもよかったであろうが、これもアルバートを演じたフレンドの気品あるハンサムぶりでなんとなく納得させられる。

 華麗な宮殿や庭園、豪壮な室内の様子、ウイリアム王の誕生日晩餐会の豪華絢爛等は英国歴史劇ならではの重厚さ を堪能させてくれる。

蛇足:生粋のイギリス映画かと思いきや、イタリア系のマーティン・スコセッシがプロデュースの中心を務め、監督はフランス系カナダ人というところが面白い。

 

67 ゴーン・ベイビー・ゴーン      (4点)

(2007年) 日本未公開

監督/ベン・アフレック、出演/ケイシー・アフレック(パトリック)、ミッシェル・モナハン(アンジー)、エド・ハリス(ブレサント刑事)、モーガン・フリーマン、ジョン・アシュトン、エイミー・ライアン、エイミー・マディガン

 4歳の幼女が誘拐されるが、母親は育児放棄に近いグータラ・ママ。兄夫婦の依頼で私立探偵のパトリックとアンジーはプレサント刑事に協力しながら幼女捜索に乗り出すが・・・

 デニス・レヘインの傑作ハードボイルド「愛しきものはすべて去りゆく」を、ベン・アフレックが監督し、弟のケイシーが主演。モーガン・フリーマンとエド・ハリスが脇を固めるというので期待して見ましたが・・・前半は単調な展開で、後半は“どんでん返し”となります。どんでん返しにも、“なるほどそう来たか!”というのと、“それはないよ!”というのがありますが、本作は後者です。いくら“アメリカ社会の闇をあぶり出す!”・・・といってもこんな設定はありえないでしょう。なんとも後味の悪い作品です。

 ベン・アフレックの監督第一作で、演出自体はオーソドックスで及第点といえます(ラストシーンそのものは秀逸)が、おそらく原作に忠実に脚本を書いたでしょうから、要は選んだ原作が悪かったといえましょう。

 

68  隠し剣 鬼の爪    (6点)

(2004年)

監督/山田洋次、出演/永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小沢征悦、緒方拳、小林捻時、田畑智子、高島礼子、田中那衛、光本幸子、倍賞千恵子、田中泯

 海坂藩の真面目で硬骨漢の下級武士が藩命により謀反人となった嘗ての親友と対決し、その後武士の地位を捨てて愛した女性と一緒に蝦夷へ渡ろうとする。

 山田洋次の時代劇3部作(=他に、02年「たそがれ清兵衛」、06年「武士の一分」)の第2作。丁寧に造られた作品で、永瀬、松、小沢や田中の演技も良く、良質の時代劇といえる。他の2作には無い特徴は、ユーモアシーン(寅さん的な)を多く取り入れた点で、監督の意図どおり結構笑えました。

豪華な脇役陣は巨匠ならではといえるが、緒方の悪役はどう憎々しい表情をしても、全体の雰囲気が悪玉に見えず、これはミスキャスト。高島もゴージャスで、下級武士の妻には見えずこれもミスキャスト。しかも唐突な登場や謀反人の妻としてあり様が全く不自然。

山田監督の脚本としては珍しくほころびを見せているが、これは藤沢周平の小品を2本くっつけた無理が出たともいえる。前半で主人公と謀反人の関わり具合をもっと描き込んで、後半の対決へと持っていったほうが、より骨太の時代劇作品になったと思われるが、監督の主題はラブストーリーにあったからこれは無理な望みといおうか。

69 カジノロワイヤル   (7点)

  

(2006年)

監督/マーティン・キャンベル、出演/ダニエル・クレイグ(=ボンド)、エヴァ・グリーン、マッツ・ミケルソン、ジュディ・デンチ、ジャン・カルロ・ジャンニーニ

 殺しのライセンス(=00)を得たボンドは初の任務として世界中のテロリストを資金面で支えるル・シッフルを追い、彼が資金集めの為に企画したモンテネグロのカジノロワイヤルに乗り込む・・・。

 “ゆるい感じ”が否めなかったピアース・ブロスナンに代わって、6代目ボンドとしてクレイグが登場。冒頭のマダガスカルで、爆弾魔の男を追って走り、鉄塔を上り、宙づりになり、格闘し、大きくジャンプし・・・と、目を見張るようなシャープな動きで一気に観客のハートを掴む。引き締まった肉体と切れ味抜群のアクションは初代を含め最高で、ボンドファンを納得させたといえよう。ボンドガール・エヴァも大きな憂いを含んだ瞳が魅力的で、歴代ナンバーワンのダニエラ・ビアンキ以来の美人といえよう。

 しかし、私的にはクレイグはどう見てもロシア人風で、(生粋の英国人なのだが)ボンドという感じがしない。ショーン・コネリ−にあった“男の色気”というものを感じさせない。従ってラブシーンもガサツで、ロマンティックな雰囲気が醸成されない。MI6ナンバーワン・スパイのオーラが無いのである。

 又M役のジュディ・デンチは現代イギリスを代表する名優ではあるが、此処では聡明なMI6のトップという雰囲気がない。ボンドのサポート要員が皆裏切り者というのは情けないではないか!(これは彼女のせいではなく、脚本の失敗であるが、)何よりもセリフにユーモアが無いのが最大の欠点。バーナード・リー(=初代M)が懐かしい。  あるとき現実のMI6のトップが女性であったという事実が漏れ、目ざといスタッフが早速デンチをMに起用したのであるが、もういい加減、知力とリーダーシップそして英国流ユーモアを表現できる男性に切り替えるべきである。

蛇足: 2012年の「スカイフォール」で、007も50周年を迎えるという。本シリーズは、ハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリのイオンプロ製作でスタートしたが、二人の逝去のあと、ブロッコリの娘バーバラ・ブロッコリが父の後を継いでプロダクションを維持しているのは立派。

本作「カジノロワイヤル」は先代が唯一製作権を逃し、1967年にチャールズ・K・フェルドマンが製作したが、ものの見事にズッコケた。それだけに彼女も執念で権利を獲得して製作に臨んだと推測されるが、その心意気を感じさせる出来上がりではある。

70 アトランティスのこころ   (7点)

(2001年)

監督/スコット・ヒックス、出演/アンソニー・ホプキンス(=テッド・ブローティガン)、デビッド・モース(=ボビー・ガーフィールド)、アントン・イェルチェン(=子供時代)、ミカ・ブーレム(=キャロル)、ホープ・デイヴィス(=ボビーの母)

 幼馴染の不慮の死で故郷を訪れたボビーはかって暮らした廃屋に佇み過去を追想する・・・父を亡くし母子で暮らす家に不思議な老人が間借り人としてやってきて、少年と心を通わしていくのだが・・・

 見ていて心に切なさとなんともいえないようなノスタルジーが湧いてくる不思議な魅力に満ちたヒューマン・ファンタジー。ホプキンスの静かな演技が絶妙で、また子役の二人(=アントンとミカ)がこまっちゃくれることのない伸びやかで愛らしい演技で素晴らしい。

71 やじきた道中 てれすこ  (8点)

(2007年)

監督/平山秀幸、出演/中村勘三郎、柄本明、小泉今日子、ラサール石井、波乃久里子、淡路恵子、笑福亭松之助、間寛平、藤山直美、麿赤児、南方英二、松重豊、吉川晃司、鈴木蘭蘭、星野あき、国村隼、笹野高史

 やじきたコンビに品川宿の売れっ子花魁が加わった珍道中に、落語のネタを随所に配した喜劇。勘三郎のコミカルで軽やかな演技と、柄本のねちっこい演技の掛け合いが絶妙で、多彩な共演者のユーモア溢れる演技も見事。それらを引き出した平山監督の演出も冴えており、邦画にしては珍しく素直にカラッと笑える傑作コメディ。

蛇足:歌舞伎を越えて大活躍した勘三郎は勘九郎時代から数多くの映画にも出演しているが、(歌舞伎映画を除いて)これが唯一の主演作。軽妙な演技や掛け合いでの絶妙の間合いに、蓄えた実力が存分に発揮されている。本当に素晴らしい役者さんです!追悼作品をオンエアしてくれたことに感謝しながら合掌。

 

72 ヒップホッププレジデント    (6点)

(2003年)

製作・監督・主演/クリス・ロック、出演/バーニー・、マック、ディラン・ベ−カー、ニック・サーシー、タマラ・ジョーンズ、リン・ウイットフィールド

 ひょんなことから大統領選の“負け犬候補”として目をつけられた黒人の市会議員がスタッフによるお仕着せの選挙戦を拒否し、自らの信念を貫きはじめると奇跡が起きる・・・。

 オバマ大統領誕生の5年前にスクリーンでは初の黒人大統領が誕生!・・・才人クリスがありえないストーリーを、軽いノリで、結構大統領選の楽屋裏などに皮肉とブラックユーモアを乗せて快調に飛ばしたコメディ。

 クリスはスタンダップコメディアンとしてアメリカでは人気が高いらしいが、日本人の感性には合わないのか、彼の主演作品は本作も含めて日本では未公開が殆どであるのが残念。でも、エディ・マーフィーより面白いかも!

 

73 恐怖の岬   (7点)

(1962年)

監督/J・リー・トンプソン、音楽/バーナード・ハーマン、出演/グレゴリー・ペック(=弁護士サム)、ロバート・ミッチャム(=マックス)、ロリー・マーティン、ポリー・バーゲン、テリー・サバラス、マーティン・バルサム

 妻と娘の3人で平和に暮らす弁護士サム。ところがある日、サムの前にマックスという男が現れる。彼はサムの証言により婦女暴行強姦罪で8年の刑を受け、出所した男。偏執狂のこの男が復讐心に燃えて執拗にサム一家を追い詰めていく・・・。

 ミッチャムの強烈な悪党ぶりが圧巻で、ペックを圧倒している。(ハリウッドのトップスターの一角を占めながら、卑劣極まりない悪党を堂々と演じるのは流石!)

 モノクロにすることによって50年代の雰囲気を上手に醸し出しており、サスペンス溢れる演出はトンプソン監督黄金期の傑作といえよう。

又特筆すべきは、ハーマンの音楽の秀逸さ。青空の下、能天気な雰囲気でマックスが現われるという一見平凡なシーンであるに拘わらず、その後の展開を暗示するような“恐怖感”を漂わし、以降の音楽でサスペンス&ホラー度を一層高めて行っている。音楽が如何に映画の出来栄えに貢献するかの良き見本である。

 

74 トゥームレイダー  (5点)

(2001年)

監督/サイモン・ウエスト、出演/アンジェリーナ・ジョリー、イアン・グレン、ダニエル・クレイグ、レスリー・フィリップス、ジョン・ボイト

 トレジャーハンターのララは20年前に失踪した父の遺品から発見した不思議な時計が惑星直列に拘わる時空の謎を解くカギで、それをイルミナティという秘密結社が狙っていた〜〜かくてアンコールワットからアイスランドへと、ララと敵とのトレジャーハンティングが展開される・・・。

 原作が人気アドベンチャー・ゲームというから、筋立てなどマジメに考えてもはじまらない。頭をカラッポにして、メチャクチャ強い(スティーヴン・セガールもメじゃない!)アンジェリーナのスーパーアクションを楽しめばいいのダ。後に何も残らないが、スピーディな展開に、CGの仕上がりもマズマズで、まぁ、スカッとします。

蛇足 この作品から4年後にニュー・ボンドに抜擢され、トップスターにのし上がったダニエル・クレイグが、情けないチンピラ悪党役で登場しているのがご愛嬌。

 

75 トゥームレイダー2  (5点)

(2003年)

監督/ヤン・デポン、出演/アンジェリーナ・ジョリー、ジェラルド・バトラー、クリス・バリー、ノア・テイラー

 今回は、蓋を開けると人類に大疫病をもたらすという恐怖の「パンドラの箱」を巡っての悪党との争奪戦。今回の舞台は地中海から中国、そしてアフリカへと展開する。目を見張るような、しかして大味なアクション活劇はヤン・デポンの面目躍如。

アンジェリーナはもうどうしようもないくらいスーパーパワフルで、相方に起用したバトラーも霞んでしまうほど。

 

76 最後の恋のはじめ方   (6点)

(2005年)

監督/アンディ・テナント、出演/ウイル・スミス(ヒッチ)、エヴァ・メンデス(サラ)、ケヴィン・ジェームズ(アルバート)、アンバー・ヴァレッタ

ニューヨークの敏腕デートコンサルタントのヒッチは、アルバートの高望みの恋の成就に尽力する一方、ワークホリックのスゴ腕ゴシップ専門誌記者サラに恋するようになる・・・アクションにシリアスにと多彩な才能を発揮するスミスがコメディに挑戦。

ほのぼのとした味を出して、スミスはコメディが一番向いているのではないかと思わせる出来栄えとなっている。但し、恋の相手サラは“自己中”の鼻もちならない女に設定されており、それを演ずるエヴァもキュートな魅力など全く無く、その道の専門家ヒッチがなんでこんな女に恋するの??と納得がいかないところが最大の欠点。

 

77  007/慰めの報酬  (6点)

(2008年)

監督/マーク:フォースター、出演/ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アルマリック、ジュディ・デンチ、ジャンカルロ・ジャンイーニ、ジェフリー・ライト

前作が多くの謎を残したまま終わったと思ったら、本作は完全なる続編で、しかも本作でも未だ完結しない。新シリーズは異例ずくめ!

ボンドの恋人ヴェスパーを操った黒幕ホワイトを捕まえ(ここまでが前作)、尋問を始めた途端、身内に又も(!)裏切り者がいて、ホワイトは逃亡。再びボンドの黒幕追跡行がハイチ〜ボリビアと展開する・・・。

切れのいいスピーディでダイナミックなアクションは益々冴えて、これが新シリーズのメダマとして定着。全ての黒幕としてかっての「スペクター」に代わって「クォンタム」という謎の組織が明らかとなるが、MI6の内部深く潜入するほどの力を持っている割には、企てる陰謀がスケールが小さい。南米の貧乏国ボリビアの水資源を支配することに勢力を傾けてどうするんだ!、いったいそれでどれくらい儲かるの?と言いたい。(そしてスペクターだと下っ端が一杯いたのに、クォンタムではあまりその姿を見かけないのだ!)

敵役を演ずるマチューもどうも小粒である。そして前作と違ってボンドガール(=オルガ)に華がない。その辺りのちょっと鼻っ柱の強いお姉ちゃんといった感じで、これ等は作品として致命的。

又デンチのMもどうしようもない。永年傍においた警護役がクォンタムの輩下だったとは、もう絶句。しかも

M   「彼にはこの灰皿をプレゼントしたのよ」

ボンド 「彼は煙草を吸いません」

・・・こんなことでMI6の長が務まるのか!

〜〜というわけで、5点としたいが、アクションの素晴らしさで+1点。

 

78 地下鉄に乗って   (5点)

(2006年)

監督/篠原哲雄、出演/堤 真一(長谷部真次)、大沢たかお(父)、岡元 綾(みち子)、常盤貴子、田中泯、笹野高史、吉行和子

零細アパレルのサラリーマン長谷部は絶縁した父が倒れたとの知らせを受け、昔の住まいへ行こうとしたが、無くなった兄らしき姿を追いかけて、地下鉄の出口から外へ出ると、そこは兄が無くなった年=1964年・・・東京オリンピックを目前にした中野坂上だった・・・

タイムスリップとタイムパラドックスによるファンタジーを狙っているが、父が家庭内暴力と不倫なら、その父を全否定した主人公自身も不倫に近親相姦というのではファンタジーになんかなりゃぁしない。現代〜1964年〜現代〜1945年〜1964年〜現代・・・とめまぐるしくタイムスリップを重ねるのも、観客には混乱して分かりにくいのが難点。

原作は浅田次郎で、彼の著作はめっぽう面白いのは間違いないが、「此処は泣かせるゾ、此処は笑わせるゾ・・・」という意図が見え見えで“あざとい”ところが欠点であるが、「鉄道員」といいその「あざとさ」が目について、本当の狙いのファンタジーを打ち消している。

蛇足 監督は主人公の兄の死を、地下鉄飛び込みから、路上トラック事故に何故変更したのだろうか?原作どおりにしたらもっと深みのあるストーリーになっただろうに・・・これがシナリオの最大の失敗。浅田はどうしてクレームをつけなかったんだろう?

 

79  特攻野郎AチームTHE MOVIE  (6点)

(2010年)

監督/ジョー・カーナハン、出演/リーアム・ニーソン、ブラッドリー・クーパー、クイントン・“ランベージ”・ジャクソン、シャールト・コプリー、ジェシカ・ビール、パトリック・ウイルソン

 米陸軍にあって、リーダーのハンニバル(=ニーソン)を中心に規格外の4人を結集した「Aチーム」が、イラクで悪党一味が盗んだ米ドル製造の原版を取り戻したと思ったら・・・“頭カラッポ超アクションムービー”の典型として、結構テンポ良く飛ばしています。

 こんな“おバカムービー”にリーアム・ニーソンが出たのはビックリですが、その起用がマンマと当たったといえます。(彼が立てた作戦なら、荒唐無稽であろうとももっともらしくて説得性が出てくるからなんです!)あとの3人の個性もなかなか秀逸で、キャスティングは合格です。

まぁ、こんな映画をあれこれ言っても始まらないので、単純に楽しめばいいのでしょう。続編は出るのかな??

 

80 トリコロールに燃えて  (7点)

(2004年)

監督/ジョン・ダイガン、出演/シャーリーズ・セロン(=ギルダ)、スチュアート・タウンゼント(=ガイ)、ペネロペ・クルス(−ミア)、トーマス・クレッチマン

 貧しいが真面目で向学心に富むガイは彼が暮らす大学の寮室に飛び込んできた美貌の女性ギルダと出会い、イギリスからパリに去った彼女の誘いに応じパリへ赴き、彼女と同居するスペイン女性ミアとも知り合い、共にギルダを愛するという奇妙な三角関係の生活が始まる・・・リベラルな20年代からファシズムが台頭する30年のパリを舞台に真剣に愛を追求する男と、リッチで才能に恵まれ奔放に生きる女、そして彼らの愛が時代の大きな流れに翻弄されていく様子を描いた作品で、生き生きとした人物描写と共に、30年代のパリの映像が素晴らしい。

蛇足 セロンが前年「モンスター」でアカデミー主演女優賞を取った次の作品。本作ではとても奇麗で、演技も素晴らしい。こちらの方が彼女の代表作(その後も含めて)と言える。今まで彼女を美しい女優とは思わなかったけれど、この映画の中では本当に美しい!又、彼女の見事な裸体を拝めるのも素晴らしい!トップ女優になった後だけによけい素晴らしいが、当時29歳、それだけ自分のボディに自信があったということであろう。

 ガイ役のタウンゼントは知的なハンサムで魅力たっぷり。セロンも共演して惚れ込んだか親密な仲が10年も続いたらしい。(結婚には至らず)しかし何故か彼はその後男優として大成していない。

 

81 髪結いの亭主  (6点)

   

(1990年)

監督/パトリス・ルコント、出演/ジャン・ロシュフォール、アンナ・ガリエナ、モーリス・シェヴィ

“大人になったら、女の理容師の夫になりたい!”という子供の頃の夢を、60才を過ぎて(?)実現させた男の物語。

初老のオヤジが超色っぽい美貌の理容師とあっさり結婚できてバラ色の人生を送れるなんて〜〜まったくありえない無茶苦茶なストーリーであるが、おとなの童話として目くじら立てずにルコント監督の世界に浸れば、奇妙な楽しさを味わえます。映像の奇麗さとガリエナの色っぽさで+1

 

82 スフィア  (5点)

(1998年)

監督/バリー・レヴィンソン、原作/マイケル・クライトン、出演/ダスティン・ホフマン、シャロン・ストーン、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・コヨーテ

太平洋の海底で数百年前に墜落した物体が発見され、選ばれたエキスパートたちが指名されて海底へ調査に向かう。謎の飛行体は何故かアメリカのものらしいが、その機内には黄金色に光る巨大な球体(=スフィア)があって、やがて奇怪な事件が次々と起こり、調査隊に危機が迫る・・・。

前半のサスペンスはなかなかのものであるが、原作者がクライトンだから壮大なSFかと思ったら、途中からサイコホラーになってしまい竜頭蛇尾。肝心のスフィアの解明がなされず、地球外生命体も存在するやらしないやら不明で観終わってモヤモヤ感が強まる。(原作もこんなもんなんでしょうか?)

蛇足: クライトン原作だというのに突っ込みどころ満載!・・・例えば

(1)シャロンのセリフ=「珊瑚の成長は1年に2〜3cmよ。巨大な物体が珊瑚に埋もれているとしたら、これは何百年も前に沈んだことになるのよ!」・・・物体が数百年前に沈んだ決定的証拠となる重要なセリフであるが、しかし光の届かぬ海底300mで巨大物体を包み込むような造礁珊瑚が成長するのでしょうか?

(2)数百年前に沈んだ飛行物体(=垂直尾翼の形状から見ると、スペースシャトル?)だというのに、捜査隊が簡単に入口を発見出来て、しかもそこを開いても機内に水が入らないとは!

(3)巨大な「スフィア」が存在するほどの空間が機内にあるとはよほど大きな飛行物体でないとならないが、宇宙ステーションならいざ知らず、そんな巨大な飛行物体があるのか?そんな巨大物体が宇宙から墜落して、完全に原型をとどめたまま数百年も存在するのか?・・・等々、これが原作に忠実なシナリオだとしたら、クライトン先生を疑っちゃいます!

又、シャロンは当時女優人生の盛りにあったハズですが、此処では全く輝いていないのが残念。(彼女のその後を暗示する作品であったかもしれません)

 

83 アンブレイカブル  (7点

(2000年)

監督&脚本/M・ナイト・シャマラン、出演/」ブルース・ウイリス、サミュエル・L・ジャクソン、ロビン・ライト・ペン

冒頭黒人女性に赤ちゃん誕生のシーン。しかもこの子が胎内にいるうちから何か所かの骨が骨折していたという難病の持ち主〜オヤ、そんな子供の成長の話か?と思ったら、画面がいきなり変わって特急列車に座るウイリス・・・こうした意表を突くようなイントロと鮮やかな画面展開はなんとも上手いですなぁ!

この列車が脱線転覆し、乗客131人が死亡したが、ただ一人生存、しかもカスリ傷一つ負っていない!

(病院で彼の前に横たわった存命者のお腹に巻かれた包帯の下から一点の朱色が現れたと思ったら見る見るうちにその朱色が全体に広がっていく・・・静的な映像で人の死を現わすのこの辺りの演出も心憎い)

 何故主人公は唯一人生き残ったのか?・・・ミステリーは紆余曲折を経て驚愕のラストへと繋がる

 スピリチュアル派の異才・シャマラン監督の面目躍如の作品。主演ウイリスの静かに物悲しい表情が印象的で全編を通じて湿っぽく暗いが、随所にシャマラン監督の才能が光っている。巧妙な仕掛けの映画好きには堪らない作品と言えましょう。

蛇足 偶々というか、「ダイハード3」(1995年)を見た翌日に本作を見たので、何ともおかしな感じだった。=共にウィリスとジャクソンが共演している作品なんです。シャマラン監督はダイハードを見て、ジャクソンの相方起用を思いついたのかな?!

 

84  トム・ホーン    (6点)

(1980年)

監督/ウィリアム・ウィヤード、出演/スティーヴ・マックィーン、リンダ・エヴァンス、スリム・ピケンズ

 西部開拓末期に活躍した実在の“カウボーイ”トム・ホーンの波乱の半生を描いた作品。開拓の時代が終わり、現代社会へ移り変わろうとする西部。流れ流れてとある田舎町にやってきたトムは牧場主に依頼されて牛泥棒退治に乗り出すが、次々と泥棒たちを射殺していく荒っぽい手法についていけなくなった他の牧場主から見放されて、やがて少年殺しで逮捕されるが、抗弁することなく逍遥と死を受け入れる・・・。

蛇足 マックィーンが「ネバダ・スミス」(1966年)、「ジュニア・ボナー」(1972年)以来久し振りに西部劇の舞台に帰ってきたが、本作の撮影中に肺がんを発症し、同年製作の次作「ハンター」が遺作となってしまった。本作でも心なしか「ブリット」や「華麗なる賭け」の時のような精気が感じられない。(それはは気のせいか?!) 合掌

 

85  キツネと私の12カ月   (7点)

(2007年)

監督/リュック・ジャケ、出演/ベルティーユ・ノエル・ブリュノー、イザベル・カレ、トマ・ラリベルテ

大自然に囲まれたフランス・アルプス地方。少女リラは森のはずれでキツネと出会い、友達にしようと必死になる・・・

傑作ドキュメンタリー「皇帝ペンギン」のジャケが撮ったドキュメントタッチのフィクション・ファンタジー。自然の掟を越えてキツネを自らの世界に引っ張り込もうとする少女に、私的にはちょっとイラッとして感情移入出来ないキライがある。

それにしてもフランス・アルプス地方の四季は素晴らしい!どの画面も一幅の絵画と言えるほど美しく、動物の息つかい、野鳥の鳴き声、虫の羽音、雫の音、風のささやき・・・自然が醸し出す音色が爽やかで心洗われる思いがする。こんなに美しい映画はそうないであろう。又、キツネをこんなに演技させることが出来るとは驚きである。

 

86 ALLWAYS三丁目の夕日‘64   (8点)

2012年

監督/山崎 貴、出演/吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、薬師丸ひろ子、三浦友和、須賀健太、小清水一揮、

森山未来、温水洋一、米倉斉加年、高畑淳子、大森南朋

 例によって丁寧なCGを駆使して、東京オリンピック開催時の三丁目を見事に再現。お馴染の人物が総登場して大活躍。3作目にして早くも「寅さん」の如く、シリーズとしての既視感と安定感を醸し出している。

私なんざぁ、正にこの年に四国の田舎から東京に出て来た・・・数年前から、“東京オリンピックを生で見る為に、ゼッタイ現役で合格するゾ!”・・・と頑張ったので、余計本作にシンパシーを感じてしまう。ブルーインパルスが東京の青空に鮮やかに描いた五輪を見て横町の人々が万歳するシーンがなんとも印象的。

笑いと涙のツボを押さえた人情喜劇としてなかなかの出来栄えで、登場人物とそのエピソードがしっかりと描き込まれて、142分を長く感じさせない。

 

87 スラムドッグ$ミリオネア   (6点)

2008年

監督/ダニー・ボイル、出演/デヴ・パテル(ジャマール)、マドゥル・ミッタル(兄サリーム)、フリーダ・ピント(ラティカ)

 ムンバイのスラム街に育った青年ジャマールが「クイズ・ミリオネア」に挑戦し、次々と正解を出していく。「不正がある!」と警官に拷問まがいの検索を受けたり、司会者から罠を仕掛けられたりしながらも、ついに最後の20百万ルピー挑戦に辿り着く・・・クイズだけなら面白みに限界があるが、その間に子供のころからの兄弟と美しい少女の成長の軌跡を挟んでいく。ワルガキの兄弟がタジマハールで観光客から金をくすめるなどの逞しい動きが鮮やか。アップテンポなインドの音楽や踊りも随所に挟んでインド映画&文化へのオマージュも好ましい・・・なんとも巧みな演出に脱帽。

ボイル監督は他には大した作品を残していないから、これは突然変異としか言いようが無い。恐らく彼としては空前絶後の傑作であろう。さりながら、素晴らしい作品には違いないが、アカデミー賞(2008年)において作品賞、監督賞をはじめ、歌曲賞、作曲賞、撮影賞等8部門の賞を総なめしたとは、いくらなんでもオカシイのではなかろうか?(例えば、音楽的には、単にインドムードを出しただけで、心に響くような旋律は無い!)・・・そう思って当時のノミネート作品を振り返ってみると、この年はかなりの不作であったことが分かる。例えば、今年(2013年)と較べてみるとその差は歴然で、この点ボイル監督はじつにラッキーだったと言えよう。

 

88 十三人の刺客   (7点)

(2010年)

監督/三池崇氏  出演/役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、六角精児、伊原剛志、松方弘樹、吹石一恵、内野聖陽、岸部一徳、平幹二朗、松本幸四郎、稲垣吾郎、市村正親

三池監督の作品は全く知らないが、来るもの拒まずの多作で、エロ・グロ・ナンセンスを得意としているらしい。そんな作風の監督が傑作時代劇として評価が高い、工藤栄一監督の1963年作品のリメイクに挑んだというから、さていったいどんな仕上がりに??と興味津津で見てみたら・・・オリジナルを充分レスペクトした、堂々の本格時代劇になっていました。

前作は終盤30分に及ぶ集団チャンバラに注目が集まりましたが、今回は(前作が13対70に対して)なんと13対200というからビックリで、大包囲網、爆発、火炎牛の暴走といった見せ場の後に(これで30人ほど倒しても、まだあと170人も残っているので、)延々40分を越える大剣劇。此処で前作を越えてみせよう!というのが三池監督の意地だったのでしょう。

13人のキャラクターを、彼らの登場場面で克明に描くことは不可能なので、このチャンバラシーンで「個」の見せ場を作ってあります。13人の殆どが、TVの現代劇中心の役者ですから、セリフ回しも所作も侍とは程遠いのですが、大立ち回りを続けているうちに次第に侍らしくなってきたのが面白い。殺陣となると、さすが松方の太刀さばきが鮮やかで、東映時代劇の伝統を感じさせます。剣豪浪人の伊原も様になっていました。

特筆すべきは暴虐非道の殿を演ずる稲垣吾郎で、狂気と紙一重の凄まじいばかりの非道さとその裏にある虚無感を見事に演じていました。(脱力感のある虚無の演技は前作の菅貫太郎にはなかったものです) よくこんな役を引き受けたもんです。彼の非道に倒れた者たちの恨みを晴らす為、無残に苦しみ抜いて死なせようという島田新左衛門の魂胆に対し、瀕死の中で「今まで生きてきて、今日が一番愉快であった」という独白はなんとも皮肉であります。

随所に三池監督の個性が出てきて、ちょっと白けるところもありますが、まぁ、それには目をつぶって、21世紀でも、これだけの骨太の時代劇を作ることが出来るんだと示したことに敬意を表します。

 

89  監獄島   (5点

(2007年)

監督/スコット・ワイパー、出演/スティーヴ・オースティン、ヴィニー・ジョーンズ、ロバート・マモーネ、リック・ホフマン

 世界中から極めつきの死刑囚が10人、絶海の孤島に集められ、生き残った一人が釈放されるというバトルロワイヤルが幕を切って落とす。実は邪(よこしま)なIT事業家が、有料サイトで生中継して大儲けを企んだもの。ひと癖もふた癖もある凶悪犯の死闘や如何?

 有料サイトで稼ぐという企画が今風で秀逸。ナンセンス娯楽に徹して、迫力のバトルが展開されるかと思いきや、途中から妙に社会派っぽくなって(見る者の良心を癒してはくれるものの)、アクション娯楽としては急速にエネルギーを減速してしまった。 

普段は悪役を務めることが多い、WWEの人気プロレスラー・オースティンを主役に起用したのが、意外性があるといえよう。

 

90   シンドバッド 虎の目大冒険   (6点)

(1977年)

監督/サム・ワナメーカー、製作/チャールズ・H・シニア、レイ・ハリーハウゼン、特撮/レイ・ハリーハウゼン、出演/パトリック・ウェイン、ジーン・シーモア、タリン・パワー、マーガレット・ホワイティング、パトリック・トラウトン、ピーター・メイヒュー

 シンドバッドの親友カシム王子は王位に就こうとしたまさにその時、継母である魔女ゼノビアの魔術でヒヒに変えられてしまう。シンドバッドは恋人のカシムの妹の願いを聞いて、王子を元の姿に戻すべく、一行は極北の地(!)を目指して大冒険の航海が始まる・・・。

ダイナメーションというコマ送り特撮の手法を駆使して世の中を驚嘆させ、ハリウッド特撮映画の創始者ともいえるのがレイ・ハリーハウゼン。2013年5月に逝去し、その追悼として放映されたのが、チャールズ・H・シニアとのコンビによるシンドバッドシリーズの3作目。

ある種の感慨を以って観ましたが、はてどうしたことか?・・・肝心の特撮が19年も前のシリーズ1作目「シンドバッド七回目の航海」よりはるかに劣っているのである。登場する原始人やサーベルタイガーなど、一作目の双頭の怪鳥や一つ目の巨人、魔法のランプのジニー、そして骸骨との決闘といったようなキャラクターに比べるとインパクトが弱い。

但し、極北の地に存在する四元素の神殿の豪華なセットだけは素晴らしかったです。ハリーハウゼンに哀悼の意を表して「+1点」しました。

≪蛇足≫

 キャステイングが面白い。シンドバッドを演じるのはジョン・ウェインの次男。ヒロインの一人・ディオーネ役のタリン・パワーはタイロン・パワーの次女。そして金属製のミノトン(=ミノタウルス)はダイナメーションではなく、中に人間が入っており、それがピーター・メイヒュー・・・どこかで聞いた名前だと思ったら、「スターウオーズ」の毛むくじゃら大男のチュー・バッカを演じたのがこの人。本作での大男ぶりを評価されて、スターウオーズにも起用されたそうな。

 で、よく見てみると、本作とスターウオーズ第1作はなんと同じ年に製作されているというからビックリ。ジョージ・ルーカス率いるILMの特撮技術が如何に革新的であったか改めて納得させられる。

 しかし、ハリーハウゼンは不とう不屈で、スターウオーズが出た後も決して落胆することなく、自身の「ダイナメーション」に拘って、1981年に豪華キャストで「タイタンの戦い」を製作し、それ相応の成果を挙げているのはご立派。あらためて合掌。  

 

91 アーマード 武装地帯   4点

(2009年)

監督/ニムロッド・アーントル、出演/マット・ディロン、ジャン・レノ、ローレンス・フィッシュバーン、コロンバス・ショート、フレッド・ウオード

現金輸送車の警備員グループが42百万ドルの大金を輸送中に狂言強盗で奪おうとするが、予期せぬアクシデントが発生して、そこから最悪の事態へと展開していく・・・。

 タイトルはいただけないが、キャステイングに目を惹かれ、ひょっとしたら“ひねった”展開になっていて面白いかも?と思って観たところ、これが全くの駄作。

此の手の映画はその作戦プロセスの面白さが大きなポイントであるが、本作の狂言作戦は“用意周到な計画”でも何でもなく、大金輸送の機会を捉えて単純に奪おうというだけで、面白くもなんともない。又、一味に加わった新入りが途中から正義のヒーローになるというのも感情移入しにくい。

これだけの役者を揃えておいて、いったい何を言いたくてこの映画を作ったのか?プロデューサーと監督に尋ねてみたい。

 

92  わたしのグランパ   7点

(2003年)

監督/東陽一、出演/菅原文太、石原さとみ、浅野忠信、平田満、宮崎美子、伊武雅刀、波乃久里子

 祖母、両親と平穏に暮らす中学生珠子の家に13年の懲役刑を終えた祖父が帰ってきた。祖父・謙三は、元殺人犯であるにも拘わらず、町内から暖かく迎えられる。珠子は祖父と次第に心を通わせ、“グランパ”と呼ぶようになる。そして悪を放っておけない謙三の行動で、珠子と友人へのいじめがなくなり、悪ガキ達も改心して周りが穏やかになり・・・しかし、13年前の事件に恨みを餅うヤクザが周りをうろついて・・・

 筒井康隆の小説の映画化。大人の童話といえる作品で、菅原文太がじつにいい味を出して好演。石原さとみも可愛くて初々しい感じがいい。エンディングがちょっとあっけないが、思い通りに正義を貫く時代遅れの男には、やっぱりこれが一番の終焉かもしれない。  

 

93 墨 攻   (8点)

  

               (ファン・ビンビン)

(2006年)

監督/ジェイコブ・チャン、出演/アンディ・ラウ、アン・ソンギ、チェ・シオン、ワン・チーウェン、ファン・ビンビン、ウー・チーロン

 故・久保田千太郎の小説を森秀樹が漫画化した作品を日・中・香・韓の合作で映画化。・・・時は紀元前370年の戦国時代、趙の猛将・巷淹中率いる10万の大軍は燕への遠征の途上、両国の間にある梁の王城を取り囲んだ。梁王は“兼愛”と“非攻”を主義とする墨家集団に助けを求め、一人革離がはせ参じ、知略の限りを尽くして、趙の猛攻を跳ね退けるのだが・・・。

 数ある中国古代歴史絵巻の中でも傑出して面白く、特に数多くの戦闘シーンは戦略的な動きを克明に捉えて秀逸。又現代にも通じる墨家の思想を革離を通して訴えて(理想主義に過ぎるとはいえ)格調高い作品となっている。

 演技者も、文句なしのアンディ・ラウは言わずもがな、皆役処にしッかりとはまって好演。ヒロイン逸悦を演じるファン・ビンビンがなんとも凛々しく美しい。最後はハッピーエンドにしてあげたかったが・・・。

≪蛇足≫墨家集団の「兼愛、非攻」の思想は、日本人というか、特に現行憲法“墨守”の人達には大いに受けそうであるが、本作の主人公は“墨守“ならぬ墨攻”で、即ち悪辣な勢力から国民を守るためには、敢然と戦いぬくことが必要であると身を以って示した。

現在我が国の周囲には、憲法前文で唱えるような、平和を愛する諸国民の公正と信義」は存在しないのであり、存在しないものに信頼を置いて「我らの安全と生存を保持しよう」にも出来ないのである。あらためてそうしたことを考えさせられたのであります。  

 

94 幸福のスイッチ (6点)

 

(2006年)

監督/安田真奈、出演/上野樹理、沢田研二、本上まなみ、中村静香、林剛史

 小さな田舎町で電器店を営む父。“商売は売った後の面倒見が肝心”と、採算度外視で顧客をフォローする父には、妻亡きあと3人の娘がいる。自己主張の強い次女は父に反発して上京し、イラストの道を歩むが、上司とぶつかり、退職。そこへ実家から戻って欲しいとの連絡が入り、帰ってみると、父は転落事故で入院中で、父に代わって店を切り盛りすることに。商売を通して田舎の人々とのふれあいを重ねて、自己中で頑なな彼女の心に少しずつ変化が・・・。

 田辺市の豊かな自然の中で、家族のふれあいがほのぼのと、淡々と描かれる。淡々過ぎて盛り上がりに欠けるのが難点。ユーモアで味付けしようとしてはいるのだが、その演出が下手で、笑えない。沢田研二が好演しているものの、彼が演技者として持つユーモアを引き出すことが出来ていないのが惜しい。上野はまさに適役といえよう。

徹底して顧客第一の電器屋のおやじの姿は、天国の松下幸之助翁が観たらさぞ喜ぶだろうなあ!と思っていたら、監督はかつて松下電産に勤めており、その経験が脚本に込められているという。昔は本当にこんな町の電器屋さんがあったのだが、時代の流れには逆らえず、又松下もパナソニックに変わるとともに、こんな電器屋さんを切り捨てざるを得なかったんだなぁ・・・と沢田おやじの姿を見て別の感慨を持つのでありました。

 

95 新しい人生の始め方 (6点)

(2010年)

監督/ジョエル・ホプキンス、出演/ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、アイリーン・アトキンス、ジェームズ・ブローリン、キャシー・ベイカー

 NYに住むCM作曲家のハーヴェイは、一人娘の結婚式でロンドンに出向くが、別れた妻やその再婚相手等出席者の中で疎外感を味わい、しかも愛娘からバージンロードは継父と歩むと告げられてどん底の気分に・・・、一方ヒロインは気難しい母の面倒見に疲れ、小説作りに唯一の生きがいを求める・・・そんな悩み多き中年の男女が偶然めぐりあい、少しずつお互いの心を開いていく・・・。と、まあ、2大演技派スター共演による、いつかどこかで見たようなハートウォーミングなロマンチック・ストーリー。

 さりながら、やはりポフマンの、やりきれない疎外感の演技は、中年を過ぎた男には身につまされるものがあります。また自分を大事にするあまり、つい身をひいてしまうアラフォー女の心の襞をさりげなく表現するエマの優しげな演技も素晴らしい。やはり演技派2大スターと言えます。

 

96 幸せのパン (6点)

(2011年)

監督/三島由紀子、出演/原田知世、大泉洋、森カンナ、平岡祐太、光石研、八木優希、中村嘉津雄、渡辺美佐子、余貴美子

 洞爺湖を見下ろす高台にぽつんと立つ真新しいハウス。若い夫婦が営むパン屋兼ミニペンション。美しい自然の中を舞台に夏=若いカップル、秋=父娘、厳冬=老夫婦の3組の人生模様を描き出す。面白かったのは彼氏に振られてヤケになった若い女性の最初のエピソード(森カンアが好演)だけで、後の2編はもう一つ腑に落ちません。

 全体の描写はあまりにも現実離れしていますが、冒頭の「月とマーニー」の絵本のエピソードが表象しているように監督はメルヘンとして描きたかったのだから、非現実さを批判しても始まらない。そう思ってみれば、ほのぼのとしたメルヘンタッチには原田&大泉ははまり役と言えよう。画面いっぱいに広がる美味しそうなパンが印象的。  

 

97 のぼうの城  (8点)

(2011年)

監督/犬堂一心、樋口真嗣出演/野村萬斎、佐藤浩市、成宮寛貴、榮倉奈々、山口智充、上地雄輔、山田孝之、

平岳大、前田吟、芦田愛菜、西村雅彦、平泉成、鈴木保奈美、夏八木勲、市村正親

1590年(天正18年)、秀吉は北条攻めを開始。石田三成率いる2万の軍勢が北条方の武州・行田の忍(おしの)城攻略に向かった。城主・成田氏長は小田原城に入り、城に残った従兄弟の城代・泰季が急死。泰季の息子の長親が急遽城代となり、兵500に領民の百姓併せても総勢僅か3千人で、2万の三成軍に立ち向かった・・・。忍側の知略を尽くした必死の防戦に、三成軍は攻めあぐみ、ついには城の周囲に土塁を築き、水攻め作戦を敢行するも、尚忍城は落ちない。やがて小田原・北条が先に墜ち、忍城は名誉の開城を行い、籠城した兵と農民の命は救われたのである。

 こうした歴史上の事実をベースにして、奇想天外な戦国合戦絵巻を展開。大半の役者が時代劇とは無縁で、果てどうなることやらと思ったら、皆なかなかの熱演。(榮倉だけはやっぱり浮いていましたが・・・)特にひげ面に目ん玉ひき剥いた“ぐっさん”=山口智充が堂に入った猛将ぶりで、いちばん武将らしい佐藤浩市にひけをとらないのにビックリ。

 野村萬斎の飄々とした“のぼう”ぶりはやはり秀逸。三成陣営の眼前に単身漕ぎだした小舟の上で歌い舞う“田楽おどり”は圧巻。能役者の本領発揮で、こればかりは他のどの映画人も真似できない。

 北海道の原野のオープンセットでの攻防戦も迫力充分で、CGの出来栄えもよく、予想以上の本格戦国映像に仕上がっていました。公開前に東日本大震災が発生した為、公開延期となった挙句、肝心の水攻めシーンが大幅カットとなったのは残念としか言いようがない。

 

98 最後の忠臣蔵 (8点)

(2010年)

監督/杉田成道、出演/役所広司、佐藤浩市、桜庭ななみ、安田成美、片岡仁左衛門、笈田ヨシ、伊武雅刀、山本耕史

 47番めの義士・寺坂吉衛門、討ち入り前夜に逐電した大石の家来・瀬尾孫左衛門・・・共に大石から受けた密命を果たすべくあらゆる苦難を乗り越えて、生き抜いた二人の武士の生きざまを描いた作品。

 池宮彰一郎の原作を映画化。なかなか格調高い時代劇となっている。原作と違った所も結構あるが、これだけ中味の濃い作品に仕上がったのは、やはり原作が秀逸であったからとも言える。役所広司の演技は流石。また桜庭の可憐さが輝きを放っている。  

99 歓喜の歌  (6点)

(2007年)

監督/松岡 錠司、出演/小林薫、伊藤淳史、安田成美、由紀さおり、浅田美代子、藤田弓子、根岸季衣、田中哲司、光石研、笹野高史、塩見三省、渡辺美佐子、立川談志、立川志の輔、片桐はいり、斎藤洋介、リリー・フランキー

舞台は地方都市みたま町の町営文化ホール。責任者はキャバクラの夜遊びが過ぎて役場から左遷され、やる気ゼロの飯塚主任。大みそかの夜のコンサートがダブルブッキングになっていたことが前日に判明し、そこから騒動が勃発。互いに譲らぬセレブ・マダムグループとママさんコーラスグループの間に入って、飯塚主任と気まじめな部下の加藤君はいかにこの事態を解決するのか・・・?

故・談志師匠や志の輔さんがチョイと顔を出す・・・ハテ?と思ったら、志の輔さんの新作落語を映画化したものという次第で、多彩な俳優達が皆さん落語的に役柄を演じています。一主任が勝手にホール内装改造工事をやっちゃっていいのか?、工事費用はどうすんのか?・・・等突っ込みどころはイッパイですが、そこはまぁ、もとが落語ということで〜〜全て善意で納まってハッピーエンドなのであります。

但し、画面から大みそかの雰囲気が感じられませんが、夏場に撮影を行ったということで、やはりこれはちょっと無理があったのではないでしょうかねぇ?!

 

100 ケープ・フィアー  (6点)

   

(1991年)

監督/マーティン・スコセッシ、音楽監督/エルマー・バーンステイン、出演/ロバート・デ・ニーロ、ニック・ノルティ、ジェシカ・ラング、ジュリエット・ルイス、ジョー・ドン・ベイカー、ロバート・ミッチャム、グレゴリー・ペック、マーティン・バルサム

リー・J・トンプソン監督の傑作ミステリー (⇒73 「恐怖の岬」 に記載) を30年ぶりにスコセッシ&デ・ニーロのコンビでリメイク。前作はある意味でパーフェクトで、しかも「小品」だけに、敢えてリメイクする意味も余地もないのではないかと思ったのですが、当時悪役志向の強かったデ・ニーロの意向を汲んでスコセッシが取り組んだのでしょうか?

スコセッシは前作を充分リスペクトして大筋は略同じ展開。(音楽も巨匠バーンステインを起用しながら、前作のハーマンの旋律を略踏まえています。ハーマンのメロディが秀逸で、バーンステインもそれをよく分かっていたということでしょう)

しかし、スコセッシとしても全く同じでは、才人監督がリメイクした意味がありませんから、主人公一家と敵役のキャラクターをかなり現代風に変更しています。前作では主人公は善良な弁護士で、敵役は全くの逆恨み。弁護士の妻と娘も素直な女性で、只管恐怖に怯えるだけ。

ところが本作では主人公には弁護士として敵役が怨むだけの理由があり、しかも事務員と不倫関係にあるという、ちょっと感情移入しにくい設定。妻はキャリアウーマンで、自己主張があり夫の浮気も食ってかかる強い女。娘は思春期特有の複雑な感情を露わにする。そして敵役はデ・ニーロが演ずるからには、14年に及ぶ刑務所暮らしの間に、強靭な肉体造りに励む一方で、法律・宗教・文学などに造詣を深めた教養高い偏執狂・・・と言う次第。

しかしこの設定変更が成功したとは言い難い。メインテーマは「フィアー=恐怖」であるから、前作のような単純な設定のほうが、逆恨みに翻弄される善良な一家の恐怖感がより際立つというものである。

デ・ニーロは執念深い狂気の男の役作りに没入し、まぁ本人としては満足であったのでしょう。しかし肩に力を入れず自然体で演じたロバート・ミッチャムのほうがより恐怖感を醸し出していたのは皮肉です。又、ニック・ノルティはどう見ても知的な弁護士には見えず、これはミス・キャストです。

蛇足: スコセッシだけに豪華演技陣を集め、キャスティングには前作を観た人を思わずにやりとさせる仕掛けがあります。==なんと、前作で弁護士サムを演じたグレゴリ−・ペックが犯人マックスの弁護士で、犯人マックスを演じたロバート・ミッチャムがサムの友人の警部役で謂わば攻守所を変えて登場するのです!前作で友人警部役を演じたマーティン・バルサムも裁判長として登場します。前作から30年経過しても皆さんお元気だったのはご同慶の至りです。本作撮影当時テリー・サバラスも存命していたので、何かの役で登場させてあげればよかったのに・・・。   因みに各人の没年は、ペック(03年)、ミッチャム(97年)、バルサム(96年)、サバラス(94年)・・・合掌  

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