ジョン・マルコヴィッチJOHN  MALKOVICH) 本名John  Gavin  Malkovich

                1953年 アメリカ、イリノイ州生まれ                    

ジョン・マルコヴィッチ(以下この項ジョンと表記)は、前掲のシニーズとは同じイリノイ州生まれ、76年共にステッペンウルフ劇団を創設して以来の深い付き合いで、二人は映画・演劇活動を通じた盟友ともいえよう。  劇団の創設から7年後、サム・シェパードの「True West」でオフ・ブロードウエイの演劇賞を獲得して注目され、次いでブロードウエイで「或るセールスマンの死」をダスティン・ホフマンと共演し、評判をとってその後映画界にデビュー。

ジョンは既に現代の名優としての評価を確立しているといえるが、又その一方で、ロシア・マフィア的雰囲気の、もの静かで凄みのある悪役としても大きな存在感を示している。なにしろ、彼が悪役として登場すると、その映画全体がビシッと締まるような気がする。

・93年「シークレット・サービス=In the line of fire」(監督・ウォルフガング・ペーターゼン、主演・クリント・イーストウッド、レネ・ルッソ)・・・イーストウッドが、スーパーマンのエージェントではなく、かつて、ケネディ暗殺を阻止出来なかったことで、今も心に深い傷を持つ悩める老練エージェント、フランク・ホリガン(当時クリント・63才の実年齢を感じさせる)という設定に、ペーターゼン監督の一ひねりがあるものの、全体としては「並」の出来栄えの作品である。に拘わらず、自分を見捨てたCIAへの復讐の為、大統領暗殺を狙う変装名人のスナイパー、ミッチ・ラーリィ役のジョンがアカデミー助演男優賞にノミネートされたというのは、如何に彼の変装の妙技と、大胆な恐怖の演技が見事であったかの証拠であろう。

・97年「コン・エアー=Con Air」(監督・サイモン・ウエスト、出演・ニコラス・ケイジ、ジョン。キューザック)・・・凶悪犯ばかりを乗せて飛ぶ輸送機に集められた囚人達の中で、脱走を企てるボス格のサイラス‘ザ・ヴァイラス=virus’として、「如何にも」の何れ劣らぬ悪人面揃いのキャストの中にあって、一際抜きん出た威圧感を出しているのは流石である。

・98年「ラウンダーズ=Rounders」(監督・ジョン・ダール、出演・マット・ディモン、エドワード・ノートン、ファムケ・ヤンセン、マーティン・ランドー)・・・闇のカード賭博を仕切るボス・通称「KGB」として、主人公の天才学生カード師=ディモンを言い知れぬ恐怖感で追い詰めていくクールな演技は彼の真骨頂である。又余談乍ら、主人公を救う老教授を演じるマーティン・ランドーが年輪を重ねて実にいい味を出している。

  一方、私の視野には入らない、彼本来の「名優」路線はというと、

・84年「プレイス・イン・ザ・ハート=Place in the heart」〔監督・ロバート・ベントン、出演・サリー・フィールド、ジョン、ダニー・グローヴァー、エド・ハリス〕・・・舞台は30年代のテキサスの農村地帯。保安官の夫の突然の死後、途方にくれる未亡人が流れ者の黒人(=グローヴァー)助けを借りて、幼い子供二人と家を守るため奮闘する心温まる感動作。(サリーはこの熱演で2度目の主演女優賞を獲得)・・・ジョンは家の売却を迫る銀行員の思惑で下宿することになった盲目の男といった役どころ。見た目貧相で心を閉ざしたひねくれ者であるが、一家の奮闘を感じ取って次第に閉ざした心を開いていく過程の演技が素晴らしく、デビュー作でいきなり助演男優賞候補に上がる程の強い印象を残したのである。

・84年「キリング・フィールド=The killing field」(監督・ローランド・ジョフィ、出演・サム・ウオーターストン、ハイン・S・ニョール、ジョン)・・・70年代クメール・ルージュ=ポル・ポト派の大虐殺を告発したジョフィ会心の野心作。米人記者の助手役のニョールが助演男優賞を受賞。

・85年「哀愁のエレーニ=Eleni」(監督・ピーター・イエーツ、出演・ケイト・ネリガン、ジョン、リンダ・ハント)・・・NYタイムズの記者となった青年=ジョンは第二次大戦中ギリシャで殺された母・エレーニの過去を追う。

・87年「ガラスの動物園=The glass menegerie」(監督・ポール・ニューマン、出演・ジョアン・ウッドワード、カレン・アレン)・・・テネシー・ウイリアムズの有名戯曲をポールが惚れ込んで完全映画化。

・87年「太陽の帝国=Empire of the Sun」(監督・スティーブン・スピルバーグ、出演・クリスチャン・ベール、伊武 雅刀)・・・ゼロ戦が好きだった少年が、日本軍進駐下の上海で両親と生き別れ、捕虜収容所に入って大人の世界に直面せざるをえなくなる。その収容所の相棒役がジョン。・・・スピルバーグが娯楽作品の間に挟むシリアス路線の「カラー・パープル」に続く第二作。

・88年「マイルズ・フロム・ホーム」、92年「二十日鼠と人間」(G・シニーズの項で掲出・・・ともに名作品)

・88年「危険な関係=Dangerous liaisons」(監督・スティーヴン・フリアーズ、出演・グレン・クローズ、ジョン、ミッシェル・ファイファー、スウージー・カーツ、ユマ・サーマン、キアヌ・リーヴス)・・・18世紀革命前夜のフランス貴族社会の退廃を妖しくも美しく描く。(・・・だいたいクローズ、ファイファー、ユマ、みんな妖しい女だよね!)ここでのジョンは、社交界きってのドンファン、パルレモ子爵を演じている。

 そしてこの頃から、その底冷えのするような怖さのイメージとは全く逆の、様々な「愛」をテーマにした作品の主人公役が何故か(!)続くのである。 

・90年「シェルタリング・スカイ=Sheltering sky」(監督・ベルナルド・ベルトルッチ、主演・デブラ・ウインガー、ジョン)・・・愛を取り戻す為に北アフrカを旅する夫婦を待ち受ける過酷な運命を描いて、単なるラブ・ロマンスを超えたベルトルッチならではの力作。

・90年「幸福の選択=The object of beauty」(監督・マイケル・リンゼイ=ホッグ、主演・ジョン、アンディ・マクダウェル)

・95年「メフィストの誘い=O Convent」(監督・マノエル・デ・オリヴェイラ、主演・カトリーヌ・ドヌーヴ、ジョン)・・・我が国に登場するのは珍しい、ポルトガルの監督によるポ=仏合作の作品。

・95年「愛のめぐりあい=Par del les Nuages」(監督・ミケランジェロ・アントニオーニ&ヴィム・ベンダース、出演・ジョン、ソフィー・マルソー、ピーター・ウエラー、ジャン・レノ、マルチェロ・マストロナンニ、ジャンヌ・モロー)・・・途中、脳卒中に倒れたアントニオーニがベンダースの助けを借りて完成した4編の愛のオムニバス。・・・余談乍ら、流石のアントニオーニもこれでお終いか?と思ったら、ドッコイ!なんと、80才を越えた‘00年になって、又2本のメガフォンをとっているというから、もう参りました!

・96年「ある貴婦人の肖像=The portrait of a Lady」(監督・ジェーン・カンピオン、出演・ニコール・キッドマン、ジョン、バーバラ・ハーシイ、マーティン・ドノヴァン、クリスチャン・ベール、ジョン・ギールガット)・・・カンピオン監督の演出にゾッコンとなったニコールが、彼女に頼み込んで実現させた、ニコールによるニコールの為の映画。ジョンはニコールを籠絡(ろうらく)する冷酷なアメリカン・ジゴロのオズモンド役を演じている。

 そして、この後はその傑出した演技力を基にしつつも、次第に娯楽色の強い作品が多くなっている。

・96年「ジキル&ハイド=Mary Leilly」(監督・スティーヴン・フリアーズ、主演・ジョン、ジュリア・ロバーツ)・・ジキル博士の若い女中の日記によるという、新設定の作品でジョンの二役が絶品。

・96年「狼たちの街=Mulholland halls」(監督・リー・タマホリ、出演・ニック・ノルティ、メラニー・グリフィス、チャズ・パルミンテリ、マイケル・マセドン、ジェニファー・コネリー、クリス・ペン、ジョン)・・・ロス市警特別捜査班「ハットスクワッド」(‘40年代に実在)のリーダーが昔の愛人の殺人事件の謎を追う。標的の陸軍原子力委員会の長、テイムズ将軍を演ずるジョンは黒ブチ眼鏡に醸し出す雰囲気も弱々しげで、一見彼が演じているとは分からない。(・・・尤もこの役はなにも彼で無くてもよかったであろう。役者を揃えた割りにはそれぞれを生かしきれず、ストーリーは竜頭蛇尾。主演のノルティが老けたことと、それに何よりも26才になったジェニファーのナイスバディに感嘆。)

・98年「仮面の男=The man in the iron mask」(監督・ランドール・ウオレス、出演・レオナルド・ディカプリオジェレミー・アイアンズ、ジョン、ジェラール・ドパルデュー)・・・ジョンは三銃士の一人、アトス役。

・99年「ジャンヌ・ダルク=Jean of Ark」(監督・リュック・ベッソン、出演・ミラ・ジョボヴィッチ、ジョン、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン)・・・ここでのジョンは、ジャンヌのオルレアンでの奇蹟の勝利によって窮地を救われ、王位につくことが出来たにも拘わらず、自らの地位を保つために彼女を敵の手に渡してしまうシャルル7世を演じ、その卑怯・姑息な性格の表現においてまさに彼の真骨頂を発揮しているといえよう。(・・・なお、ベッソン監督は「フィフス・エレメント」で抜擢したミラにゾッコンとなり、今度は彼女を主役に起用したが、ミラもこれに応え、従来の可愛い子チャンを脱却して、ジャンヌ役を体当たりで熱演。但しホフマンの“神の声”の存在はどうにもいただけない)

 ジョンも‘00年でまだ47才、「シークレット・サービス」で見せたように、どんなキャラクターも演じ別けることの出来る、言わば「七つの顔」の役者である彼は、この先どんな名演技を見せてくれるか楽しみである。

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