デニス・ホッパー(DENNIS HOPPER)

            1936年 アメリカ、カンザス州、ダッジシティ生まれ                   

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数年前の入浴剤のTVコマーシャル・・・浴槽の中で、裸でタオルをヒラヒラさせてご機嫌のシーンがあった。(そういえば、宝田 明も同じようなCMをやっていたっけ!) よくもまあハリウッドのスターが臆面もなく!といったところであるが、これをサラリと演ずるあたり(ゼニの為なら何だって!・・・)がこの人の真骨頂で、怪優と呼ばれる(私は名優と思うが)由縁の一端であろう。

 なにしろ69年「イージーライダー=Easy Rider」(製作&脚本・ピーター・フォンダ、監督&脚本・デニス、主演・ピーター・フォンダ、デニス、ジャック・ニコルソン)という、アメリカ・ニューシネマの最高傑作を33才で世に送り出している大変な才人である。その名声を基にそのまま格調高い映画人の道を歩むかと思えばドッコイ。程なく酒と麻薬に溺れ破滅の一歩手前まで行き、その後毀誉褒貶の激しい人生を歩むこととなる。それからはもう何でも来い!といった感じで、時折メガフォンを取っては、玄人好みのシャープな演出でファンを唸らせるかと思えば、その一方でトンデモ映画のトンデモ役にも嬉々として応じている。「怪優」の面目躍如といったところであり、本人はいわゆる「名優」の地位に納まる気はサラサラ無いらしい。

 聡明狡猾で精神的にタフな悪漢を演ずれば第一人者であり、その代表作が

・94年「スピード=Speed」(監督・ヤン・デ・ボン、主演・キアヌ・リーヴス、デニス、サンドラ・ブロック)では知力体力の限りを尽くして主人公二人を追い詰める爆発魔を演じて圧巻の演技。 遡って

・90年「フラッシュバック=Flashback」(監督・フランコ・アムーリ、主演・デニス、キーファー・サザランド、キャロル・ケイン)・・・新米のFBIエーゲントのジョン・バックナー(=キーファー)は元祖・ヒッピーのヒューイ・ウオーカー(=デニス)を収監の為、列車護送役を仰せつかるが、なにせウオーカーは海千山千。若いジョンを言葉巧みに騙くらかして逃走する。ここから二人の追走劇が開始されるが、逃げ込んだ先のジョンのお袋がこれまた筋金入りのヒッピー。〜てなことで、純情なキーファーと狸親父のホッパーのやり取りがなんとも愉快。最後の意外な結末等にシナリオのよさを感ずるとともに、ホッパーのパーソナリティが120%発揮されて面白い。(残念ながら、未公開で深夜TV放送があったのみ)

  とまあこれらは持ち前の演技力を発揮した正統派(?)の悪役で、さすが彼ならと頷かされるところであるが、

・95年「ウオーターワールド=Water World」(監督・ケヴィン・レイノルズ、主演・ケヴィン・コスナー)・・・秀作と駄作がはっきりと分かれて交互に出てくるコスナーの、これは愚作も愚作、大愚作であるが、その中でデニスはスモーカーギャングの親玉・ディーコンを大胆な割り切りでマンガチックに演じて、よくもまあ、こんなつまらない役を!と驚かされる。更に、

・93年「スーパーマリオ/魔界帝国の女神=Super Mario Bros.」(監督・ロッキー・モートン&アナベル・ヤンケル、主演・ボブ・ホスキンス・・・本当にマリオにそっくりだ!・・・ジョン・レグイサモ、デニス、サマンサ・マシス)では、なんと魔界帝国の支配者、恐竜(というより大トカゲ?)の親分、キング・クーパというこれぞ極めつけのトンデモ役。しかし、長〜い舌をチロチロと出しながら、ご機嫌でこの役を演じているから、もう唖然呆然・・・。

 こんな彼のキャリアを振り返ると、なにしろ舞台の子役として成功して以来だから、その芸暦は半世紀を優に超え、映画出演本数も百本を大きく超えている。スクリーンデビューは(「大砂塵」という説もあるが)

・55年「理由なき反抗=Rebel without a Cause」(監督・ニコラス・レイ、主演・ジェイムス・ディーン)・・・若干19才、現在の雰囲気からは想像もつかない甘いマスクの、文字通りの紅顔の美少年だ。   続いて

・56年「ジャイアンツ=Giants」(監督・ジョージ・スティーヴンス、主演・エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームスディーン)にも顔を出している。

・57年「列車大襲撃=Iron Train」(監督・レスリー・H・マーティンソン、主演・クリント・ウオーカー、デニス)・・・TVウエスタン「シャイアン」シリーズの一篇

・57年「OK牧場の決闘=Gunfight at the O.K. Corral」(監督・ジョン・スタージェス、主演・バート・ランカスター、カーク・ダグラス、ロンダ・フレミング)・・・ここでは悪名高きクラントン一家の末っ子を演じ、父や兄の悪企みに悩む、可愛いカウボーイ姿がなんとも微笑ましい。

・58年「向こう見ずの男=from Hell to Texas」(監督・ヘンリー・ハサウエイ、主演・ドン・マレー、ダイアン・ヴァーン、デニス)と西部劇が続く。その後の作品でめぼしいものを拾っていくと、

・67年「暴力脱獄=Kool hand Luke」(監督・スチュアート・ローゼンバーグ、主演・ポール。ニューマン、ジョージ・ケネディ・・・アカデミー助演賞獲得、JD・キャノン)・・・ニューマンにとって後年の「ハスラー」と並ぶ代表作といえるバイオレンスの傑作で、当時の名脇役がズラリと揃った中に混じって出演。

・67年「白昼の幻想=The Trip」(製作&監督・ロジャー・コーマン、出演・ピーター・フォンダ、デニス、ブルース・ダーン、スーザン・ストラスバーグ)・・・LSDの幻覚をひたすらサイケデリックに描いた、まさにコーマンの世界。(もっともこれで、「イージーライダー」へと繋がるデニスとフォンダの出会いがあったといえる。尚ジャック・ニコルソンが脚本を書いている!)

・67年「続・地獄の天使=The Glory Stompers」(監督・アンソニー・ランザ、主演・デニス、ジョディ・マクリー)・・・暴走族の抗争を描いた初の主演作品

・69年「勇気ある追跡=True Grit」(監督・ヘンリー・ハサウェイ、主演・ジョン・ウェイン、キム・ダービー、グレン・キャンベル)・・・ウェインが父親殺しの犯人を追う少女を助ける、飲んだくれの片目の老保安官・コクバーンを演じて、念願のアカデミー主演賞受賞(実際は永年の活躍に対する功労賞だろう!) 追われる犯人側にロバート・デュヴァル&デニス達。ウェインの、馬上荒野を駆けながら、両手にライフルと拳銃を持ってデュヴァル達と対決するシーンがなんともカッコよく、印象的であった。

  〜そして「イージーライダー」となるわけであるが、その後の監督としての作品を見てみると、

・71年「ラストムービー=Last Movie

・80年「アウト・オブ・ブルー=Out of the Blue」(出演・リンダ・マンズ、ホッパー、シャロン・ファレル)服役中の父(=ホッパー)とだらしない母(=ファレル)に怒り、麻薬に手を出す娘(=リンダ)。家庭崩壊の悲劇をむき出しに描いて、ホッパーの狂気とリンダの熱演がすごい!

・88年「カラーズ/天使の消えた街=Colors」(出演・ロバート・デュヴァル、ショーン・ペン、マリア・コンチータ・アロンゾ)・・・ロスの街を舞台に、ヴェテランと新米の警官コンビとストリートギャングの闘いを、シャープなカメラアイで描き出している。(ホッパーは珍しく監督に専念)

・89年「ハートに火をつけて=バックトラック=Backtrack」(出演・ホッパー、ジョディ・フォスター、ディーン・ストックウェル、ヴィンセント・プライス。チャーリー・シーン、ジョー・ペシ)・・・殺しを目撃した女(=フォスター)にマフィアが差し向けた殺し屋(=ホッパー)が惚れてしまい、恋の逃避行の破目に・・・ホッパーが実に味のある殺し屋の演技を見せる。(尤も製作会社が勝手に再編集したと怒ってタイトルクレジットを拒否するという、トラブルメーカーの面目躍如の一騒動で、当時話題を呼んだものである)

・91年「ホット・スポット=the Hot Spot」(出演・ドン・ジョンソン、ヴァージニア・マドセン、ジェニファー・コネリー)

・94年「逃げる天使=Chasers」(出演・トム・ベレンジャー、ウィリアム・マクナマラ、エリカ・エレニアック)

といったところで、作品と作品に間をおいてポツリポツリというのがいかにも彼らしい。

 さて、次に「イージーライダー」以降の主な出演作品に戻ると、

・77年「アメリカの友人=der Amerikanische Freund(監督・ヴィム・ヴェンダース、出演・ホッパー、ブルーノ・ガンツ、ジェラール・ブラン)ホッパーは、ハンブルグの額縁職人・ヨナサン(=ガンツ)をヒットマンに仕立て完全犯罪を企む画商・トム・リプレー役で、例によって圧巻といえる怪演振りを遺憾なく発揮して、ヴェンダースの期待に充分応えている。

・79年「地獄の黙示録=Apocalypse Now」(監督・フランシス・コッポラ、出演・マーロン・ブランド、ロバートデュヴァル、マーティン・シーン・・・ハリソン・フォードも脇でルーカス大佐役で出ている!)ではフォト・ジャーナリスト役。

・83年「バイオレント・サタデイ=the Osterman Weekend」(監督・サム・ペキンパー、出演・ルトガー・ハウアー、ジョン・ハート、ホッパー、バート・ランカスター、メグ・フォスター、クリス・サランドン)・・・ホッパーは、スパイ容疑でTVキャスター(=ハウアー)の自宅に招かれた三人のうちの(珍しくもやや気弱な)色情狂の妻に悩まされる実業家役。・・・役者を揃えたにも拘わらず、バイオレンスの第一人者・ペキンパーの演出とも思えぬ冴えと切れ味の無い駄作。あるいは原作(ロバート・ラドラム)が悪かったか?・・・これがあの異能の巨匠・ペキンパーの遺作とは!なんとも悲しい限りである。

・86年「ブルー・ベルベット=Blue Velvet」(監督・デヴィッド・リンチ、出演・カイル・マクラクラン、イザベラ・ロッセリーニ、デニス、ローラ・ダーン)・・・ノースカロライナの自然豊かな田舎町を舞台にして、耽美と退廃そして幻想に溢れた、まさにリンチの独壇場のカルトの世界で、デニスは十二分にその持ち味を発揮。

・86年「ブラック・ウイドウ=Black Widow

・86年「アメリカン・ウエイ=The American Way」(監督・モーリス・フィリップス、出演・デニス、マイケル・J・ポラード、ユージン・リピンスキ)

・86年「勝利への旅立ち=Best Shot Hoosiers」(監督・デヴィッド・アンスポー、出演・ジーン・ハックマン、バーバラ・ハーシー、デニス、シェブ・ウーリー)インディアナの田舎町の高校のバスケチームが、新任コーチの特訓のお陰で州大会で勝利を掴む迄のスポコン感動物語。ハックマンのコーチに味わいがある。

・87年「ストレート・トゥ・ヘル=Straight to Hell

・90年「パリス・トラウト=Paris Trout」(監督・スティーヴン・ガイレンハール、出演・デニス、バーバラ・ハーシー、エド・ハリス)・・・黒人少女を撃ち殺し、母に重傷を負わせても無罪放免になるや、その母を虐殺し、次に妻と、彼女が恋におちた旧知の弁護士の二人を狙う――南部田舎町の雑貨店主で人種差別主義者のパリス・トラウトの狂気と暴力の怪演技はまさにデニスの真骨頂。

・92年「レッド・ロック/裏切りの銃弾=Red Rock West」(監督・ジョン・ダール、出演・ニコラス・ケイジ、デニス、ララ・フリン・ボイル、J・T・ウォルシュ)・・テキサスからワイオミングの田舎町レッドロックに職を求めて流れてきた青年マイケル(=ケイジ)が殺し屋と間違われて、互いの殺人を目論む保安官夫婦の差し出す双方の報酬を掠め取って逃げ出そうとしたところに、本物の殺し屋ライル(=デニス)が現れて・・・欲望むき出しの四つ巴の抗争劇が始まる。乾いたウエスタン・ノワールといった独特の雰囲気の中で、ケイジ=冴えない青年と、デニス=執念深い殺し屋といった夫々の持ち味が充分に生かされて、妙に印象深い作品となっている。

・93年「トゥルー・ロマンス=True romance」(監督・トニー・スコット、脚本・クエンティン・タランティーノ、出演・クリスチャン・スレイター、パトリシア・アークエット、デニス、ヴァル・キルマー、ゲイリー・オールドマン、ブラッド・ピット、クリストファー・ウォーケン、サミュエル・L・ジャクソン)・・・ビデオショップで働く青年が、コールガールと恋におち、彼を殺そうとしたヒモを逆に殺害してメキシコへの逃走劇が始まる。タランティーノ独特のバイオレンスの世界を、個性派俳優をズラリと揃えて、トニー・スコットがシャープに描いている。

 〜それから、冒頭の94年「スピード」、95年「ウオーターワールド」等へと続くわけであるが、その後も95年〜00年で実に28本、更に01年に入っても「Ticker」、「LAPD Conspiracy」、「Knockaround Guys」「Firecracker」の4本と極めて活発な活動を続けている。今後も「枯れる」ことなく、その「怪優」ぶりに更に 磨きをかけた演技を披露し続けてもらいたい。

あとがき

ホッパー氏は2010年5月29日逝去。享年74歳。

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