さて話変わって、「名優」たちもどういう訳か極悪非道の悪人を演りたがる。悪を見事に演じ切ることで、自らの演技力の深さと巾の広さを、あらためて世間に分からしめようということなのであろうか?!

ロバート・デ・ニーロROBERT DE  NIRO)

              1943年 アメリカ、ニューヨーク市生まれ                       

サムネイル

今や押しも押されもしないハリウッドを代表する名優であるが、悪役に対する根強い願望があるようで、その代表例が、アル・パーチーノとの二大スター対決が話題を呼んだ、

・95年「ヒート=Heat」(詳細は前述のヴォイトの項を参照)・・・想像するに二人で悪役を争って、結局兄貴株のデ・ニーロが盗みのプロ、ニール・マッコリー役を取り、パチーノが不承不承ヴィンセント・ハナ=ロス市警・警部を演じたのではないか!?  

   しかしこのデ・ニーロの悪役は明らかに失敗作・・・彼が演ずるならそれなりの悪漢でなければ観客が承知しないが、ここでのニール・マッコリーはあきれる程の単細胞で、なにしろ失敗をしでかした手下をカッとなってぶん殴っては恨みを買って裏切られ、それを利用した警部の仕掛けた単純な罠にあっさり嵌(はま)って破滅への道を辿るというのだから、オソマツ極まりない。パチーノの警部も仕事一途で女房に愛想を尽かされと、これまたステレオタイプで・・・よく考えると結局脚本が悪いのだ! (でもどうして二人でシナリオに注文をつけなかったのかなぁ?)  

・96年「ザ・ファン=The Fan」(監督・トニー・スコット、出演・デ・ニーロ、ウェズリー・スナイプス、エレン・バーキン、ジョン・レグイザモ)・・・ここでは、地元チームの強打者・ボビー(=スナイプス)に熱中するあまり、恐怖のストーカーと化すナイフ・セールスマンのギルを演じている。

「ヒート」と違ってシナリオはなかなかの出来栄えであるが、さてこの主人公をデ・ニーロが演じると、変質狂の裏にある、仕事をクビになり女房に愛想をつかされたセールスマンの哀れさがどうにも浮かび上がってこない。惨めなギルというよりも、堂々たるデ・ニーロその人が表面に出てきてしまい全体にリアリティが欠けてしまうのだ。どうもこの辺りが名優デ・ニーロの意外なアキレス健かもしれない。

悪役としてかろうじて成功しているといえるのが、かなり時を遡った、

・87年「アンタッチャブル=The Untouchables」(監督・ブライアン・デ・パルマ、出演・ケヴィン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、デ・ニーロ、チャールズ・マーティン・スミス)・・・コスナーのエリオット・ネスも人間味があっていいし、コネリーにアカデミー助演男優賞を獲らせたくらいパルマ監督が各役者の個性を生かしきった作品であるが、ではここでのデ・ニーロは?というと、なんとなんと、アル・カポネ役。

 頬に詰め物をし、髪の毛を薄く漉いた(実際に!)メークアップも絶妙なら、ボス達の集まりで、裏切り者をバットでぶん殴って撲殺するような粗野な振る舞い等々我々のイメージにある親分・カポネが乗り移ったかの如き演技は、彼デ・ニーロのそれまでの枠を超えたワルの世界の名演技といえよう。

   というのも、デ・ニーロの今日あるには三人の名監督の存在を忘れてならないが、そもそも彼を見出したのは、このデ・パルマ監督なのだ。・・・

・65年「マンハッタンの哀愁=Trois Chambres a Manhattan」(監督・マルセル・カルネ、主演・アニー・ジラルド、モース・ロネ)のエキストラ同然のチョイ役でデビューしたデ・ニーロを、どういう経緯か(同じイタリア系の由か?)見出して、初めて役らしい役を付けたのが、パルマ監督(&脚本)の青春3連作で、

・68年「Greetings」(出演・ジョナサン・ウオーデン、デ・ニーロ、アレン・ガーフィ−ルド)・・・60年代のニューヨークの若者の青春記

・69年「The Wedding Party」(出演・デ・ニーロ、ジル・クレイバーグ)・・・青年の目を通して結婚模様を綴ったコメディ

・70年「Blue Manhattan」(出演・デ・ニーロ、アレン・ガーフィールド、ララ・パーカー)・・・映画青年の青春とそこには現在の分別ある重厚さが想像出来ないような、狂気を感じさせる程荒々しくエネルギッシュな若き日のデ・ニーロの姿があったのである。

次に彼を世界的に有名にしたのが、フランシス・F・コッポラ監督だ。

・74年「ゴッドファーザーPARTU」(製作&監督・フランシス・F・コッポラ、出演・アル・パチーノ、ロバート・デュヴァル、デ・ニーロ、ダイアン・キートン、ジョン・カザール、タリア・シャイア)・・・PARTT(マーロン・ブランドのビトー=ドン・コルレオーネ役が圧倒的な貫禄で、今でも脳裏に鮮やか!)に続いて、連続してアカデミー作品賞獲得した文句なしの大傑作。ここで若き日のビトーを見事に演じたデ・ニーロも31歳の若さで助演男優賞を獲得し、ここから一瀉千里というか、一気にスターダムを駆け上がるのだ。  

なにしろ、この後の作品群がスゴい!

・76年「ラスト・タイクーン=The Last tycoon」(、監督・エリア・カザン、出演・デ・ニーロ、トニー・カーティスロバート・ミッチャム、ジャンヌ・モロー、ジャック・ニコルソン、ドナルド・プレザンス、ダナ・アンドリュース、アンジェリカ・ヒューストン)・・・製作・サム・スピーゲル&音楽・モーリス・ジャールという「アラビアのロレンス」のスタッフと名匠カザンが組んだ、豪華キャストによるドラマチックなハリウッド内幕物。デ・ニーロは大手映画会社の辣腕の製作部長・スター役で、野心家の栄光と落日を見事に演じ切っている。

・76年「タクシードライバー=Taxi Driver」(監督・マーティン・スコセッシ、出演・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ピーター・ボイル、ジョディ・フォスター、ハーヴェイ・カイテル)・・・デ・ニーロはヴェトナム帰りでニューヨークの夜を走るタクシー運転手・トラヴィスを演じ誰にも真似出来ないような雰囲気を醸し出し、70年代のスクリーンのヒーローとなったのである。

・76年「1900年=Novecento」(監督・ベルナルド・ベルトリッチ、出演・デ・ニーロ、ジェラール・ドパルデュー、ドミニク・サンダ、ドナルド・サザランド、アリダ・ヴァリ、バート・ランカスター)・・・ファシズムが台頭するイタリアの農村を舞台に、地主の息子(=デ・ニーロ)と小作人頭の倅(=ドパルデュー)の対立を描く。

・77年「ニューヨーク・ニューヨーク=New York、New York」(監督・マーティン・スコセッシ、出演・デ・ニーロ、ライザ・ミネリ)・・・サックス奏者のジミー(=デ・ニーロ)と歌手フランシーヌ(=ライザ)の哀しいラブストーリー。 

・78年「ディア・ハンター=The Deer Hunter」(監督・マイケル・チミノ、出演・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・サヴェージ、メリル・ストリーヴ)・・・ペンシルヴェニアの緑豊かな田舎町を舞台にヴェトナム帰りの三人の若者の生き様を描いた青春残酷物語。アカデミー作品・監督・助演(=ウォーケン)音響・編集の各賞を取ったチミノ監督の大傑作。(でも何故かデ・ニーロに主演賞がない!)

ところで、彼を育てた3人の監督であるが、デ・パルマ(=見出し役)→コッポラ(=押し上げ役)に次いで、彼の演技力に磨きをかけ、その後最も長い付き合いとなったのが、マーティン・スコセッシ監督で、既に

・71年「Mean Streets」(出演・デ・ニーロ、ハーヴェイ・カイテル)でスコセッシはデ・ニーロの才能に気付いていたが、 そのあと、前頁に揚げた「タクシードライバー」、「ニューヨーク・ニューヨーク」を撮り、そして

・80年「レイジング・ブル=Raging Bull」(出演・デ・ニーロ、キャシー・モーリアティ、ジョー・ペシ)・・・実在のボクサー、ジェイク・ラモッタの半生を描いた男のドラマで、なんといっても拳闘シーンの迫力が凄まじい。デ・ニーロは25kgも減量するなど迫真の演技で、遂にアカデミー主演男優賞を獲得した。(でも、本当はもっと前に主演賞に相応しい作品があったであろうが・・・「タクシードライバー」、「ディアハンター」あたりか!)

これでスコセッシ=デ・ニーロの絆は更に強まり、この後、

・83年「キング・オブ・コメディ=The King of Comedy」(出演・デ・ニーロ、ジェリー・ルイス、サンドラ・バーンハート)・・・コメディアンの卵(=デ・ニーロ)がジェリー・ルイスを誘惑して一夜だけTVでの共演を強いる。デ・ニーロ=スコセッシコンビ得意の弱者の狂気を描いた作品。(それにしてもデ・ニーロがコメディアンの卵とは!・・・)

・90年「グッドフェローズ=Good fellows」(出演・レイ・リオッタ、デ・ニーロ、ジョー・ペシ、ポール・ソルヴィノサミュエル・L・ジャクソン)・・・組織のトップではないマフィアの男達の生き様を淡々と描いて、一風変わったマフィア実録もの。デ・ニーロは珍しく脇に回って主人公(=リオッタ)の先輩役。そしてジョー・ペシが助演男優賞を獲得している。(ペシとしてはそれほどの演技とも思えないのだが・・・)

・91年「ケープフィアー=Cape Fear」(出演・デ・ニーロ、ニック・ノルティ、ジェシカ・ラング、ジュリエット・ルイス、ジョー・ドン・ベイカー、ロバート・ミッチャム、グレゴリー・ペック、マーティン・バルサム)・・・62年「恐怖の岬」のリメーク。レイプ犯ノマックス(=デ・ニーロ)は務所から出るや、弁護士サム一家(=ノルティ、ラング、ルイス)に復讐を図る・・・久し振りに極め付けの悪役を得たデ・ニーロは、全身に刺青をして、お得意の狂気の演技を披露。また、G・ペックの悪徳弁護士振りも見事。

・93年「恋に落ちたら・・・」(監督・ジョン・マクノートン、出演・デ・ニーロ、ユマ・サーマン、ビル・マーレイ/スコセッシはプロデューサー)・・・デ・ニーロはシカゴの臆病なデカで、偶々ギャングのボスの命を助け、その愛人と恋に落ちる〜というコメディ。

・95年「カジノ=Casino」(出演・デ・ニーロ、シャロン・ストーン、ジョー・ペシ、ジェームズ・ウッズ)・・・賭博の才能を買われてヴェガスのカジノ、“タンジール”を任されたサム(=デ・ニーロ)を中心に、カジノの裏で生きる男女の哀歓を独特のカメラワークで描いた大作。奔放な美人ハスラー、ジンジャー(=ストーン)を首め、ワキの役者が個性を発揮する一方で、各シーン毎に、赤・黄緑・紫・黄色と原色のスーツを取替え引換え登場するデ・ニーロが印象的。(・・・スコセッシ監督のチョイとしたお遊びか?)・・・と実に9本の作品をスコセッシと共にしている。

 3人の監督から離れると、少し遡って、

・84年「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ=Once upon a time in America」(監督・セルジオ・レオーネ)・・・ジェームズ・ウッズの項で掲出

・86年「ミッション=Mission」(監督・ローランド・ジェフィ、出演・デ・ニーロ、ジェレミー・アイアンズ、レイ・マカナリー)・・・鬼才・ジェフィ監督が南米奥地を舞台に、近世キリスト教の欺瞞と大罪に正面から挑んだ傑作。奴隷商人から真実の神の道に目覚めるメンドーサを演じるデ・ニーロの演技が素晴らしいし、イグアスの滝の壮大な景色とエンニオ・モリコーネの荘厳な音楽も最高!

・・・等々の傑作がある。

格超高い大作続きにデ・ニーロも些かくたびれたか(?)、97年あたりからは、アクション、サスペンス、コメディとあまり気張らない(=肩の凝らない)作品にホイホイと気軽に出演している感じがする。(それとも何か、もっと金を稼がなければならない事情でも生じたのか?)

・97年「コップランド=Copland」(監督・ジェームズ・マンゴールド、出演・シルヴェスター・スタローン、ハーベイ・カイデル、レイ・リオッタ、デ・ニーロ、アナベラ・シオラ)・・・NY警察管内で起きた警官誤射事件を切っ掛けに“警官村”内に住む者達の深い闇の部分が浮かび上がる・・・芸達者な役者を揃えたわりには、くすんだ暗いムードで、冴えない出来栄えの作品。主人公の聴覚障害のある、うだつの上がらない保安官を演じるスタローンも徹底的に抑えた演技。脇に回ったデ・ニーロはさすがの彼も腕の見せどころが無いといった感じである。

・98年「RONIN」(監督・ジョン・フランケンハイマー、出演・デ・ニーロ、ジャン・レノ、ナターシャ・マケルホーン、ショーン・ビーン、ジョナサン・プライス) ・・・5人の元スパイがパリに集められ、依頼を受けたブリーフケースを盗み出すが、裏切り者に奪われて争奪戦が展開。カーチェイスの迫力やアクションが話題を呼んだが、それならこんな芸達者を集めなくてもいいわけで、その辺のミスマッチが痛快な作品とならなかった所以かもしれない。

・99年「アナライズ・ミー=Analize This」(監督・ハロルド・ライミス、出演・デニーロ、ビリー・クリスタル、チャズ・パルミンテリ、リサ・クドロー)・・・ニューヨーク・マフィアの大ボス・ポール(=デ・ニーロ)がなんと神経性発作に悩まされ、恥じを忍んで精神科医・ベン(=ビリー)の許へ・・・デ・ニーロは強面のドンと悩めるドンの二面性を楽しんで演じている様子。悪役よりもコメディタッチの演技が意外といい! ポールからベンへの贈り物として、最後にトニー・ベネットが登場してバラードを歌うのがご愛敬だ。

・00年「ザ・ダイバー=Men of Honor」(監督・ジョージ・ティルマン・Jr、出演・デ・ニーロ、キューバ・グッティング・Jr)・・・海軍に入った黒人(正しくはアフリカ系アメリカ人)カール(=グッティング)はプルマン大佐(=デ・ニーロ)によって才能を見出されて、カラード最初の“マイスターダイバー”目指して苦難の道を乗り越える・・・といったヒューマンドラマで、2人の四つに組んだ演技のぶつかり合いがスゴイ。

・00年「ミート・ザ・ペアレンツ=Meet the Parents」(監督・ジェイ・ローチ、出演・デ・ニーロ、ベン・スティラー、テリー・ポロ)・・・「アナライズ〜」に続くコメディで、愛娘との結婚目指して頑張る看護士グレッグにたちはだかる元CIAの頑固親爺(=デ・ニーロ)との葛藤・・・デ・ニーロの喜劇タッチの演技も磨きがかかってきた!

・01年「スコア=the Score」(監督・フランク・オズ、出演・デ・ニーロ、エドワード・ノートン、マーロン・ブランド、アンジェラ・バセット)・・・一匹狼の金庫破りの天才(=デ・ニーロ)へ永年の相方の故買屋(=ブランド)が持ち込んだ仕事に、内部情報役の男(=ノートン)が絡んで展開する犯罪サスペンス。(それにしてもマーロン・ブランドは年とった!)

・01年「15ミニッツ=Fifteen minutes」(監督・ジョン・ハーツフェルド、出演・デ・ニーロ、エドワード・バーンズ、オレッグ・タクタロフ、エイブリー・ブルックス)・・・NY市殺人課のエディ(=デ・ニーロ)はスター刑事。ロシア人が引き起こした事件を追い、エディと親しいTVアンカーマン・ロバートは彼を襲った悲劇を徹底的に利用して視聴率を上げようとする・・・「ダーティ・ハリー」的ワイルドコップ+「バックドラフト」+マスコミ内幕もの〜〜いろんな要素を詰め込み(過ぎ!)のポリス・サスペンス。監督の演出がなかなかシャープで歯切れのいい仕上がりになっているのはいいが、エディ刑事が途中であっさりと殺られるシーンを観て、デ・ニーロファンは唖然呆然!・・・といった具合である。

なにしろ21世紀を迎えてもまだ58歳と言うのだから、大御所的に納まることなく益々活躍をしてほしい。

NEXT→  シネマトップへ戻る

inserted by FC2 system