アンソニー・ホプキンスANTHONY  HOPKINS)

(・・・イギリスではTHはト、従ってより近い発音はアントニー・ホプキンス )

             1937年 イギリス、ウェールズ生まれ                           

 絶妙のキャスティング、まさにこの役を演ずる為に生まれてきた!・・・といったケースは、例えば「ウエストサイド物語」のベルナルド=ジョージ・チャキリス、或いは「アラビアのロレンス」のロレンス=ピーター・オトゥール等が挙げられるが、90年「羊たちの沈黙」&01年「ハンニバル」のハンニバル・レクター博士=ホプキンスもまた然りである。

 ただし、前述の二人が、デビュー後間も無いごく初期の作品で生涯ベストワンの役柄を得たのに較べて、ホプキンスの場合は、デビュー作の68年「冬のライオン=the Lion in Winter」(監督・アンソニー・ハーヴェイ、出演ピーター・オトゥール、キャサリン・ヘップバーン・・・王妃エリノアの演技で、史上最多となる4度目の主演女優賞を獲得。・・・ホプキンスはというと、ヘンリーU世の長男・リチャード役) から20年以上の歳月を経て、ついにそうした役柄に巡り合ったのである。

 だいたいイギリスの俳優は若いときはあまり風采が上がらないのに、年をとってからぐっと良くなる人が多い。サー・アレック・ギネスなども、若かりし(といっても40代はじめだが)頃の、55年「マダムと泥棒=The Ladykillers」(監督・アレクサンダー・マッケンドリック、出演・ギネス、ケティ・ジョンソン、ピーター・セラーズ)では痩せギス、ギョロ眼のどちらからといえば、貧相な感じで、後のあの風格からはほど遠い。「80日間世界一周」のデヴィッド・ニーヴンなどもまた然り。(・・・そこに出ていた、ロンドンの金持ち貴族役のロバート・モーレイなどはイギリス老人パワーの典型だ!) ショーン・コネリー(彼は007当時も格好よかったが)は70才をすぎて一段と“いい男”になっている。(・・・「エントラップメント」では、なんとあのキャサリン・ゼタ・ジョーンズを恋人にして、まったく不自然でないのだ!)

 さてちょいと余談がすぎたが、ホプキンスも同じことが言えるのである。  彼初の主演作は、

・71年「八点鐘が鳴るとき=When Eight Bells Toll」」(監督・エチエンヌ・ペリエ、出演・ホプキンス、ナタリー・ドロン、ジャック・ホーキンス、ロバート・モーレイ)・・・アリステア・マクリーンの活劇小説ながら、監督の演出がお粗末でつまらないB級活劇になってしまった。主役のホプキンスも痩せぎす+ネクラで、これではアラン・ドロンから別れて女優として一本立ちを図ったナタリー・ドロンの引き立て役に過ぎないじゃないか!といった感じである。

ではそんな彼がどのようにして堂々の役者になっていったか、その軌跡をたどってみると、

・72年「戦争と平和=Young Winston」(監督・リチャード・アッテンボロー、出演・サイモン・ウオード、ロバート・ショー、ジョン・ミルズ、パトリック・マギー、ホプキンス、アン・バンクロフト)・・・若き日からのチャーチルの半生を描いたアッテンボロー得意の大河ドラマ。ホプキンスは偉大なロイド・ジョージ役を演じている

・75年「ジャガーノート=Juggernaut」(監督・リチャード・レスター、出演・リチャード・ハリス、オマー・シャリフ、ホプキンス、イアン・ホルム、デヴィッド・ヘミングス)

・77年「遠すぎた橋=A Bridge too Far」(監督・リチャード・アッテンボロー、出演・ショーン・コネリー、マイケル・ケイン、ジーン・ハックマン、エリオット・グールド、ホプキンス、ジェームズ・カーン、ロバート・レッドフォード、ローレンス・オリヴィエ)・・・連合軍とナチスが対決した“マーケット・ガーデン作戦”を圧倒的なスケールと物量で描いた、大作が大好なきアッテンボロー面目躍如のオールスター戦争巨編。ホプキンスは老夫婦が住む民家を接収して橋を挟んでドイツ軍と対峙する小部隊を率いるフロスト大佐役。まだ40才の男盛りとあって、鼻ひげを生やしエネルギッシュな風貌は一寸見にはジェームズ・カーンと見間違えるマッチョな感じである。

 アッテンボロー監督は、ホプキンスとウマがあったのか、このあと彼としては珍しいサイコサスペンスの

・78年「マジック=Magic」(監督・アッテボロー、出演・ホプキンス、アン=マーグレット)で、ホプキンスのマニアックな文字通りの怪演ぶりを引き出すや、しばらく後の大作「チャーリー」においても、彼を全体の狂言回し役的な、チャップリンへの回想録インタヴュアー、ジョージ・ハイデン役として起用している。

・92年「チャーリー=CHAPLIN」(製作&監督・アッテンボロー、出演・ロバート・ダウニー・ジュニア、ジェラルディン・チャップリン、ホプキンス、モイラ・ケリー、ダン・エイクロイド、ケヴィン・クライン、ダイアン・レイン、ケヴィン・ダン、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジェームズ・ウッズ)・・・チャップリン自身の原作を基に、喜劇王の映画への情熱を、初恋を忘れられないが故の奔放な女性遍歴と交えて描いた作品。 世評は芳しくなかったが、アッテンボローの「映画の歴史」とチャップリンに対する限りない尊敬と愛情の念が感じられて、私は高く評価する作品である。 そしてちょっと横道にそれるが、、何よりも、主演のロバート・ダウニージュニアのそっくりさん”を超越して、チャップリンその人が乗り移ったかと思えるほどの入魂・迫真の演技は、感動的ですらある。(・・・間違いなくロバート生涯ベストワンの演技。しかしこれほどの芸達者でありながら、その後麻薬に溺れ、役者としての輝きを急速に失っていったのが残念。まことに勿体無いの一語に尽きる)  

・93年「永遠の愛に生きて=Shadowlands」(製作&監督・アッテンボロー、出演、ホプキンス、デブラ・ウィンガー)・・・高潔なイギリスの童話作家C・S・ルイス(=ホプキンス)と詩人のアメリカ女性との哀しくも美しい愛の物語を描いて、アッテンボローが珍しくも、しっとりと抑制ある演出の冴えをみせた。・・・ホプキンスとよほど波長が合うのであろうか?

 さて話を戻して、78年以降の作品であるが、

・80年「ラブシーズン=a Change of Season」(監督・リチャード・ラング、出演・シャーリー・マクレーン、ホプキンス、ボー・デレク)・・・大学教授と糟糠の妻を巡る四角関係の、(ホプキンスには珍しい!)ラブ・コメディ。

・80年「エレファント・マン=the Elephant Man」(監督・デヴィッド・リンチ、出演・ジョン・ハート、ホプキンス、アン・バンクロフト、ジョン・ギールグッド)・・・ロンドンで“象人間”と呼ばれた異形の男と外科医(=ホプキンス)の交流をテーマにしたヒューマンドラマとしてのウリであったが、実際にはリンチ独特の残酷怪奇の世界を現出させて、彼の大出世作となった同年ナンバー・ワンの話題作。

・84年「バウンティ/愛と反乱の航海=The Bounty」(監督・ロジャー・ドナルドソン、出演・メル・ギブソン、ホプキンス、ローレンス・オリヴィエ、エドワード・ホックス、ダニエル・デイ=ルイス、リーアム・ニーソン)・・・英国海軍史上に名高い“バウンテイ号の反乱”3度目の映画化。前回、マーロン・ブランドが演じた反乱軍のリーダー、クリスチャン一等航海士をメルが、そして冷酷非情にして誇り高きブライ艦長をホプキンス。最もブライの冷酷非情振りは前作のトレヴァー・ハワードのほうがより適役かも。そしてこれだけの役者を揃えながら、たいした話題にならなかったのはなんとも不思議である。(邦題タイトルが悪かったのかも!)

 そしてこのあと、幾つかの凡作を経て、いよいよ

・90年「羊たちの沈黙=The Silence of the Lambs」(監督・ジョナサン・デミ、出演・ジョディ・フォスター、ホプキンス、スコット・グレン)・・・よ〜く振り返ると、全体に暗〜い感じで、謂われる程の作品でもないような気がしないでもない。しかし、監獄の奥の院にある独房の鉄格子を挟んで、クラリス(=ジュディ)とレクター博士(=ホプキンス)の火花散る、鬼気迫るようなやり取りは圧巻で、これぞ原作を超えた映画ならではの醍醐味といえよう。

 観る者は、先ず新米FBI捜査官・クラリスの優秀さと聡明さと健気さに感情移入し、次いでレクター博士における”天才”と”悪魔”の共存に強烈なインパクトを受ける。このかつてない悪役のキャラクター描写に、ホプキンスの真骨頂が発揮されたのである(・・・デミ監督のシャープな演出と両役者の演技の冴えによって、この種サイコスリラーとしては異例ともいえる、作品・監督・男女主演賞とアカデミー賞主要部門総なめを実現した。)

思わぬ(!)映画の大ヒットに気を良くした原作者・トマス・ハリスは、自らが創造した天才悪魔レクター博士に惚れ込んで、彼を文学史上(?)最高の悪役に仕立て上げようと、じっくりと時間をかけて構想を練り上げ、続編「ハンニバル」を世に問うた。

果たして最高の知性と技術を有する外科医にして、残酷無比なカニバリズム(=食人嗜好)の持ち主という稀有な個性の持ち主・レクター博士に、芸術・歴史・科学に対する卓越した造詣と、究極のグルメ振りに磨きをかけた、その奇想天外なキャラクターの見事さに読者は喝采し、評判が評判を呼んで世界的な大ベストセラーとなった。

 当然、映画界は放っておかず、激しい映像化権争奪戦の結果、なんと、かの大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが権利を獲得(ご老体の健在に拍手!)。 前作からじつに11年を経て、

・01年「ハンニバル=Hannibal」(監督・リドリー・スコット、出演・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、ゲイリー・オールドマン、ジャンカルロ・ジャンニーニ、レイ・リオッタ)・・・原作のあまりの内容の濃さに圧倒されたか、さすがのスコット監督も原作をサラリとなぞるダイジェスト版に終始したような演出になってしまった

(・・・唯一、レクター博士の知性と残酷さが最も発揮されるフィレンチェでの、重厚な、或いは光と影のコントラストを鮮やかに描き分けた諸シーンに、映像の魔術師・スコットの真骨頂が発揮されていたといえよう。)

  さて、超高額のギャラと大ヒットが約束されているにかかわらず、ジョディは何故出演を断ったかのか? 多分原作を読んで、“これはもう前作と違って、クラリスのストーリーではなく、あくまでハンニバル・レクター博士の物語なのね!” と理解したからではないか?! 加えて“真に自立した女”ジョディとしては原作の結末を決して認めることができなかったに違いない

(・・・私も原作のラストはノーであり、それならまだしもこの映画のラストがましだと思う。・・・これは原作者が、自ら造り出した主人公に引きずられてしまった典型的な悪事例といえよう)

 余談が過ぎたが、ともあれ本作品でのホプキンスの演技は、まさにレクター博士そのものであり、文句のつけようがないことは間違いない。

 さて、両作品を挟む10年間の作品を見ると、ホプキンスがじっくりと実力を蓄えていった軌跡が見て取れる。

・90年「逃亡者=Desperate Hours」(監督・マイケル・チミノ、出演・ミッキー・ローク、ホプキンス、ミミ・ロジャース)・・・ミッキー・ロークの項で掲出。ホプキンスは主人公と愛人関係にあった女弁護士の別れた亭主ティム・コーネル役。

・92年「フリージャック=FreeJack」(監督・ジェフ・マーフィ、出演・エミリオ・エステベス、ホプキンス、ミック・ジャガー、レネ・ルッソ)・・・魅力的なキャストだが、アイデア倒れの演出で話題お呼ばず。ホプキンスは黒幕的な巨大メーカーのオーナー役。

・92年「ハワーズ・エンド=Howards End」(監督・ジェームズ・アイヴォリー、出演・ヴァネッサ・レッドグレーヴ、エマ・トンプソン、ジェームズ・ウィルビー、ヘレナ・ボナム=カーター、ホプキンス)・・・ホプキンスは主人公に忠実この上ない執事・スティーブンスを演じて、その名演技は、これでアカデミー主演女優賞を取ったエマを凌ぐほどの高い評判を読んだ

・92年「ドラキュラ=Bram Stoker’s DRACULA」・・・ゲイリー・オールドマンの項で掲出・・・ホプキンスはヘルシング教授役。

・92年「トライアル/審判=the Trial」(監督・デヴィッド・ジョーンズ、出演・カイル・マクラクラン、ホプキンス、ポリー・ウオーカー)・・・有名なカフカの不条理劇を、ジョーンズ監督が意外にも(!)見事に映像化。

・93年「日の名残り=the Remains of the Day」(監督・ジェームズ・アイヴォリー、出演・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ)・・・これぞまさに英国映画。ホプキンスは、己を捨てて、徹底的に主人に尽くしきる、侯爵の忠実なる執事の冷徹なストイシズムを完璧に演じ切って圧巻の演技である。

・93年「愛の果てに=the Innocent」(監督・ジョン・シュレシンジャー、出演・イザベラ・ロッセリーニ、キャンベル・スコット、ホプキンス)・・・ベルリンを舞台に、米ソのスパイ合戦に巻き込まれた男女の変遷。ホプキンスはアメリカの凄腕スパイ役。

・94年「ケロッグ博士=the Raod to Wellville」(監督・アラン・パーカー、出演・ホプキンス、ブリジッド・フォンダ、マシュー・ブロデリック、ジョン・キューザック)・・・コーンフレークの開発者・ケロッグ博士(=ホプキンス)が提唱する“菜食主事と禁欲主義こそ長生きの秘訣”を実践する療養所で、この奇妙な健康法に取り憑かれた人々を描くブラックコメディ

・94年「レジェンド・オブ・フォール=Legends of the Fall」(監督・エドワード・ズウイック、出演・ブラッド・ピット、ホプホプキンス、エイダン・クイン、ジュリア・オーモント、ヘンリー・トーマス)・・・山奥の牧場に引っ込んで暮らす元騎兵隊大佐と3人の息子の人生と葛藤を、モンタナの雄大な自然の中に描いた作品。

・95年「ニクソン=Nixon」(監督・オリヴァー・ストーン、出演・ホプキンス=ニクソンジョーン・アレン=パット夫人メアリー・スティーンバージェン=ニクソン令嬢パワーズ・ブースヘイグ大将、エド・ハリスハワード・ハントボブ・ホスキンスフーバーFBI長官E・G・マーシャルジョン・ミッチエル司法長官ポール・ソルビニキッシンジャージェームズ・ウッズハルトマン補佐官J・T・ウオルシュ=アーリックマン補佐官)・・・ストーン監督が92年の「JFK」に続いて挑んだ政治ドラマは、そのケネディ暗殺の黒幕との噂もあるニクソンの栄光と崩壊。そっくりさん芸達者たちを揃えて、ウオーターゲイト事件を軸に人間・ニクソンの光と影に迫った、例によっての一種お騒がせ作品。

ホプキンスはニクソンの内面に迫ったその熱演でアカデミー主演賞候補に上がった(しかしニクソンを演じるなら、やっぱりジャック・ニコルソンが最適だと思うが、どうでしょう、オリバー監督?)

・96年「サバイピング・ピカソ=surviving Picasso」(監督・ジェームズ・アイヴォリー、出演・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン、ジュリアン・ムーア)・・・ドイツ占領下のパリで、ピカソと40歳も年下の女性とのラブストーリー。(それにしても映画って、いろんなモチーフがあるもんだなあ!)

・97年「ザ・ワイルド=the Edge」(監督・リー・タマホリ、出演・ホプキンス、アレック・ボールドウィン、エレ・マクファーソン)美人妻との不倫が疑がわしい若いカメラマンと二人きりで、アラスカの原野に不時着した富豪が、憎しみ合いながら、必死のサバイバル行。タフな壮年の大富豪役となると、まさにホプキンスのはまり役だ。

・97年「アミスタッド=Amistad」(監督・スティーヴン・スピルバーグ、出演・モーガン・フリーマン、ナイジェル・ホーンソン、ホプキンス、マシュー・マコノヒー)・・・スペインの奴隷船で反乱を起こしたアフリカ人たちと、彼らを死刑から救おうとするジョン・アダムス元大統領(=ホプキンス)・・・1839年に起きた実話に基づいた、スピルバーグ“一流”のシリアスドラマ。

・98年「ジョー・ブラックによろしく=meet Joe Black」(監督&製作・マーティン・ブレスト、出演・ブラッド・ピット、ホプキンス、クレア・フォーラニ)・・・いわゆる“ゴースト”もの。死神ジョー(=ピット)が大富豪パリッシュ(=ホプキンス)の愛娘スーザン(=クレア)と恋に落ちる・・・。ホプキンスは又々“大富豪”役。

・98年「マスク・オブ・ゾロ=」(監督・マーティン・キャンベル、出演・アントニオ・バンデラス、ホプキンス、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)・・・懐かしい感じがする正統派大活劇。しかし、ゾロに元祖=ホプキンスと、二代目=バンデラス がいるとは知らなんだ。元祖は風格があって、さすが!と思わせるが、バンテラスの二代目はどうにも薄汚い感じで頂けない。メキシコの野盗あたりがいいところであり、これはどうもミスキャストである。

TVのガイ・ウイリアムズとか(古いねえ!)、或いはアラン・ドロンのゾロのように“粋”を感じさせなくては、相手役の絶世の美女・ゼタが泣くというもんだ。(・・・余談ながら、この時が彼女の盛り。「エントラップメント」はバレーで鍛えた伸びやかな肢体で魅了したが、マイケル・ダグラスと一緒になって、「トラフィック」あたりでは、すっかりおばさんっぽくなてしまった。まさに花の命は短い!)

 横道にそれすぎたが、全体を締めているのは、ホプキンスの圧倒的な存在感である。 そしてその次が

・99年「タイタス=TITUS」(監督・ジュリー・ティモア、出演・ホプキンス、ジェシカ・ラング、ジョナサン・リス=メイヤーズ、アラン・カミング)・・・シェイクスピアの悲劇を気鋭の女性・ジュリーが大胆な演出と斬新な映像で創出した問題作でも小生はこういう類の、つまり前衛倒れの作品はキライ!) とにかくタイタス将軍(=ホプキンス)に捕虜となって最愛の長男を殺された、ゴート族の女王・タモラ(=ジェシカ)の復讐劇の凄まじいこと。まさに女はコワイ!の一語に尽きる。

 で、面白いのは、(これは私だけのマニアックな見方だと思うが) ストーリー展開に「ハンニバル」との奇妙な符合がある。・・・タイタスが自分の息子を救うために、左手を切って皇帝に差し出す=ハンニバルのラストで、彼が自らの左手を切り取って逃亡するシーンがある・・・スコット監督はタイタスを観て、原作にはないラストを思いついたのかもしれない?) しかし、タモラは皇帝に差し金して、タイタスの息子を殺してしまう。怒ったタイタスは逆復讐として、タモラの末っ子を捕らえて殺し、しかもミートパイにして、タモラに食べさす。(=ハンニバルの“カニバリズム”=食人癖と合い通じる。もっともこれはスコット監督の演出ではなく、原作どおりではあるが)

 まあ、このように、血で血を洗う凄惨な復讐劇を、これでもか!と描き切る女流監督も凄い。そして、ここでも自らの信念に従うあまり、悲劇に見舞われる武人像を、ホプキンスが格調高く演じ切っているのが印象的である。

 こうして油の乗り切ったホプキンスは、新しい嫁さんを娶る一方、今や“最も稼ぐ”=最も客を呼べる=スターとなって、その後の作品も目白押し。

・99年「ハーモニーベイの夜明け」

・00年「グリンチ」

・00年「M:I−2」

・01年「アトランティスのこころ」  と「ハンニバル」

・02年「レッド・ドラゴン」

・02年「9デイズ」

と続くのである。

このなかで、「レッド・ドラゴン」は、「ハンニバル」のトマス・ハリスの原作で、少し昔に戻ったハンニバルが登場する(・・・再びラウレンティスが製作)ということであるが、、どういう作品に仕上がるか、そしてホプキンスが若返ったハンニバルをどう演じるか?・・・楽しみである。

 

(第1部・完)

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