リー・ヴァン・クリーフ(Lee Van Cleef) 

1925〜1989、アメリカ/ニュージャージー州出身                     

 長身痩躯。決して笑わず、苦虫を噛み潰したような表情と禿げ鷹のような風貌、そして狡猾な狐を思わせるような鋭い眼差しは、一度見たら忘れられないほどの強烈な印象を残す!

 その決定版が、65年「夕陽のガンマン=For a few Dollars More」(監督・セルジオ・レオーネ、出演・クリント・イーストウッド、リー、ジャン・マリア・ヴォロンテ)のモーティマー大佐。〜〜イーストウッドとの早撃ち比べはまさに剣豪同士の果し合いを彷彿とさせ、レオーネ監督得意のケレン味たっぷりの演出に鮮やかに応えて、主役のクリントを喰ってしまうほどであった。始めは悪役と思わせて、その実、愛娘の仇を追い求めてあだを討つというホロリとさせる儲け役でもあり、これで一躍スターダムにのし上がり、マカロニウエスタン最大のスターとなった。

 しかしその見事な演技の裏にはやはり、長い下積みの冴えない悪役続きの苦労があったのである。〜〜〜52年「真昼の決闘=High Noon」(監督・スタンリー・クレイマー、出演・ゲーリー・クーパー、グレイス・ケリー)でデビュー。同年に2本出演の後は、53年に11本、54年に5本、55年に9本、56年に5本、57年に10本と、5年間でじつに40本と驚くほど沢山の作品に登場。

  もっともその大半が、例えば、「ロデオの英雄」(主演・ギグ・ヤング)、「早射ち無宿」(主演・オーディ・マーフィー)、「白昼の対決」(主演・レイ・ミランド)、「縄張りを荒らすな」(主演・ジョン・ペイン)、「略奪者の群れ」(主演・ジム・デイヴィス)、「西部の顔役」(主演・フォレスト・タッカー)「西部の裏切り者」(主演・スターリング・ヘイドン)といったように、主演俳優を見ても分かるB級西部劇の脇役である。

 A級といえるのは57年ジョン・スタージェス監督の傑作「OK牧場の決闘=Gunfight at the O.K. corral」(主演・バート・ランカスター、カーク・ダグラス・・・ここでのリーは冒頭の場面==兄弟を殺された仕返しにと仲間を連れて酒場にやってきて、アープとドクに絡み、足許に隠した銃を抜こうとして、ドクのナイフで倒されるという役処)、そして62年の「リバティ・バランスを射った男=Man who shot Liberty Valance」(監督・ジョン・フォード、出演・ジェイムズ・スチュワート、ジョン・ウェイン、ヴェラ・マイルズ、リー・マーヴィン)くらいのもので、但し、両作品ともその中で、彼はあまり印象には残らない。

62年のシネラマ大画面によるオールスターキャスト作品「西部開拓史=How the West was won」(監督・ヘンリー・ハサウエイ〜ジョン・フォード〜ジョージ・マーシャル)では主人公のプレスコット一家等の川下りを待ち伏せて襲う盗賊団の一味として、“いかにもチンピラ盗賊!”といった雰囲気で顔を出している。(尤もオールスターキャストとあって、彼の名前はクレジットされていないし、後年“モーティマー大佐”で見せたような凄みはない!・・・私は有名になった後でこの作品をTV再放送(?)で見たときに分かったので、シネラマでの劇場公開当時は当然のことながら彼の役者としての存在すら知らなかった)

そして、このシネラマを境に、何故か、あれほど多くの作品に顔を出していた彼がプッツリと銀幕から消えてしまう。・・・そしてそれから3年後、忽然と、そして颯爽と現れたのが、モーティマー大佐だったのである。「荒野の用心棒」、そしてこの「夕陽のガンマン」で世に“マカロニウエスタン”の名を高らしめたレオーネ監督が翌年放ったもう一つの傑作が「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗=the Good,the Bad,the Ugly」・・・クリントとリーにもう一人の曲者=イーライ・ウオラックが加わって、3人の賞金稼ぎが20万ドルを廻って騙し騙されの争奪戦を展開という実に面白い作品。

こうして世界的な人気者となったリ−は、かつての多作ぶりを思い出したかのように、次々とマカロニウエスタンに出演し、そしてそれらが日本にも続々と輸入上映されたのであった。

67年「新・夕陽のガンマン/復讐の旅=Death rides a Horse」(監督・ギウリオ・ペトローニ、出演・リー、ジョン・フィリップ・ロー)

67年「風の無法者=Beyond the Law」(監督・ジョルジオ・ステガーニ、出演・リー、アントニオ・サバト)

67年「怒りの荒野=Days of Wrath」(監督・トニーノ・ヴァレリ、出演・リー、ジュリアーノジェンマ)・・・娼婦の子と蔑まれながらもガンマンに憧れて懸命に生きる若者(=ジェンマ)と、街にやってきた流れ者のガンマン(=リー)・・・二人の持ち味が生かされて、ストーリーにもひねりがあり、「マカロニ・ベスト5」に入る秀作。「ガンマン10ケ条」を唱えながら若者を仕込むリーのガンマン振りがなんとも格好いい。旅のガンマンの身支度や馬の装備の考証など細かい点に気配りがあるのも結構。

68年「復讐のガンマン=Big Gun Down」(監督・セルジオ・ソリーマ、出演・リー、トーマス・ミリアン、ニエヴェス・ナヴァロ、フェルナンド・サンチョ、ウオルター・バーンズ)・・・賞金稼ぎのコーベット(=リー)と殺人誘拐犯として追われるメキシカンのコチヨ(=トーマス)の老津追われつの間に生まれる奇妙な友情、やがて二人は真犯人と対決する〜〜ソリーマらしい、大いに(?)ひねったストーリー。

68年「地獄の戦場コマンドス=Commandos」(監督・アルマンド・コルスピーノ、出演・リー、ジャック・ケリー)・・・これはウエスタンとは毛色の違った、“戦争もの”

69年「the Big showdown」(監督・ジャン・カルロ・サンティ、出演・リー、ピーター・オブライエン)

70年「西部悪人伝=Sabata」(監督ジャン・フランコ・パオリーニ、出演・リー、ウイリアム・バーガー)

71年「無頼プロフェッショナル=Bad mans river (監督・ユージニオ・マーティン、出演・リー、ジェームズ・メイスン、ジーナ・ロロブリジータ・・・オールドネーム乍ら、豪華な組合わせ!

72年「西部決闘史=Return of Sabata」(監督・ジャン・フランコ・パオリーニ、出演・リー、ライナ−・ショーン)・・・サバタの続編。

74年「華麗なる復讐=Gangstar story」(監督・ミケーレ・ルーポ、出演・リー、トニー・ロー・ビアンコ)・・・ギャング・アクション

75年「ワイルド・トレイル=Take a Hard Ride」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・リー、ジム・ブラウン、カトリーヌ・スパーク・・・懐かしや!

 そしてなんと、マカロニウエスタンとカンフーがドッキングした“珍品”まである!

76年「the Stranger and the Gunfighter」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・リー、ロー・リエ)

78年「the Squeeze」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・リー、カレン・ブラック)

 

 〜〜こうして約10年間のあいだ“マカロニ”が続くが、この人気をハリウッドがほうっておくわけはなく、一方で“古巣”からの引き合いも多かった。

 まずその皮切りが、69年「鷲と鷹=Barquero」(監督・ゴードン・ダグラス、出演・リー、ウォーレン・オーツ、カーウィン・マシューズ、フォレスト・タッカー)・・・メキシコ国境の川を挟んで、襲いきた盗賊団に対し、艀(はしけ)を運営する男・トラヴィス(=リー)が町を守って対決する。完全にマカロニ・タッチで、リーの男臭い魅力いっぱい!・・・と言いたいところだが、ストーリー展開が平板で場面転換も少なく、些か物足りない仕上がりであった。

70年「エル・コンドル=el Condor」(監督・ジョン・ギラーミン、出演・ジム・ブラウン、リー)・・・南北戦争後、エル・コンドル砦に隠された黄金の争奪戦。ブラウンが主役で、リーは残念ながら、“マカロニ”でのあの颯爽とした雰囲気はない!

71年「Captain Apache」(監督・アレクサンダー・シンガー、出演・リー、キャロル・ベイカー、スチュアート・ホイットマン

72年「荒野の七人/真昼の決闘=The Magnificent Seven Ride!」(監督・ジョージ・マッコワーン)・・・保安官となったクリスが、国境の町を守るため、又々仲間を集めて盗賊団と対決する・・・あとの6人を演ずる役者にはスター皆無で、リー一人だけが目立つ。「〜の七人」の4作目となるが、これではもう“Magnificent7”とはいえず、“タイトル詐欺”みたいなもの。(全4作品唯一の共通点は、音楽を総てエルマー・バーンスタインが担当し、従ってあのメインメロディが流れ、その点においてのみ、“あぁ、荒野の7人シリーズなんだ!”と納得する次第)

77年「Kid vengeance」(監督・ジョセフ・マンデュース、出演・リー、ジム・ブラウン)

80年「the Octagon」(監督・エリック・カーソン、出演・チャック・ノリス、カレン・カールソン、リー)・・・これはあくまで“マッチョ”のノリスの映画。

81年「ニューヨーク1997=Escape from New York」(監督・ジョン・カーペンター、出演・カート・ラッセル、リー、アーネスト・ボーグナイン、ドナルド・プレザンス、アイザック・ヘイズ)・・・これぞ“カーペンターワールド”炸裂のB級大作!・・・リーは大統領救出に向かう終身刑犯スネーク(=カート・・・これが彼の出世作!)を陰ながらサポートする、刑務所長・ホーク役。

“やはり野におけ!”ということか、“凱旋帰国(?!)”作品の「鷲と鷹」とこの渋い役処(=ホーク所長)がキラリと光った程度で、最早、あのイタリアでの輝きを見せることは出来なかった。そして、再びイタリアに活躍の場を求めるが、既にウエスタンの時代は過ぎ去っており、出演作はキワモノ的な作品ばかり。従って全て日本には輸入されていない。駄作でも殆ど輸入公開されたマカロニ時代とは隔世の感あり!である。

84年「Codename : Wild Geese」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・ルイス・コリンズ、リー、アーネスト・ボーグナイン、クラウス・キンスキー)・・・特殊コマンド部隊のジャングルでの活躍

84年「killing Machine」(監督・ホセ・アントニオ・デ・ラ・ローマ、出演ホルヘ・リベロ、リー、マーゴ・ヘミングウエイ)・・・スペイン&メキシコ合作、悪党に妻を殺された元テロリストの復習譚。

85年「Jungle Raiders」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・リー、マリナ・コスタ)・・・例によってイタリア特有の、臆面もない「レイダース=インディ・ジョーンズ」のパロディ作品。

86年「Armed Response」(監督・フレド・オーレン・レイ、出演・デヴィッド・キャラダイン、リー、マコ・岩松)・・・これはアメリカ映画のアクションもの。

88年「the Commander」(監督・アントニオ・マルゲリティ、出演・ルイス・コリンズ、リー、ドナルド・プレザンス)・・・“アンソニー・ドーソン”という英語名でも知られるアントニオとよほど気が合ったのか、これで5本目の作品。

89年「Thieves of Fortune」(監督・マイケル・マッカーシー、出演・マイケル・ヌーリー、リー)

そして残念ながら、遺作となったのが、

89年「キャノンボール/新しき挑戦者たち=Speed Zone!」(監督・ジム・ドレイク、出演・ジョン・キャンディ、ドナ・ディクソン)のチョイ役=rock-skipping grandfather

 〜〜心臓発作で倒れたときに彼の脳裏をどんな思いが駆けたことであろうか?・・・40歳の男盛りを迎えるときに、最高の作品と巡り合えたことを神に感謝していたのかもしれない・・・。合掌

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