ウエスタン/U
黒沢作品のリメイクといえば、「用心棒」を換骨奪胎したマカロニ・ウエスタンがある。そもそもマカロニ・ウェスタンが知名度を上げた最初は、TVの「ロ−ハイド」(ティオムキン作曲―フランキ−・レイン唄による主題歌が傑作)が終わって、食詰めたクリント・イ−ストウッドがイタリアに呼ばれ、「Per
un pungo di Dollari=Fistful of Dollars」(=一握りのドルの為に=まさに、当時の彼の心境でもあったか?)―邦題「荒野の用心棒」―に主演し、これが世界的に大ヒットしたことによる。(因みにマカロニ・ウエスタンと命名したのはやはり淀川さんで、アメリカではスパゲティ・ウエスタンと呼んだ)
以後、元祖・監督セルジオ・レオ−ネ&音楽エンニオ・モリコ−ネの強力コンビを筆頭にゾロゾロと登場し、「続・荒野の用心棒」(これは原題がDjango、セルジオ・コルブッチ監督、フランコ・ネロ主演で、「荒野の〜」とは何の関係もない―同じ配給元・東和の悪知恵だ)「荒野の1ドル銀貨」、「南から来た用心棒」, 「夕陽のガンマン」(Per
qualche Dollaro in piu=For a few Dollars more・・・こちらが、むしろ「荒野の用心棒」の続編だ)、「続・夕陽のガンマン」等が映画のヒットとともにそのテ−マミュ−ジック(イタリア映画特有の残酷描写と、それとはウラハラな奇麗な旋律!)も話題を呼び、当時の映画音楽ベストテンの上位を飾ったものだ。
イ−ストウッド、リ−・ヴァン・クリ−フがハリウッドへ凱旋、フランコ・ネロ、ジュリア−ノ・ジェンマ、ジャン・マリア・ヴォロンテ(彼は主に仏で活躍)等のイタリア俳優勢が後に続き、そしてレオ−ネ&モリコ−ネもやがてハリウッドに進出。
ハ−モニカの音色を効果的に使った「ウエスタン」(Once
upon a time in the West・・・ヘンリ−・フォンダ生涯唯一の悪役ではないか!)を経て、ギャングの大河ドラマ「Once
upon a time in
America」(ロバート・デ・ニーロ、ジェイムス・ウッズ主演、それにジェニファ・コネリ−が可愛い!)の音楽では、それまでの「異能」的な旋律からオーソドックスで華麗なメロディへと一変。特に「デボラのテ−マ」は大作に相応しい華麗でオ−ソドックスなメロディで、彼のハリウッドへの挑戦意欲、意気込みを感じさせる。又、「アマポ−ラ」がコネリ−のバレ−練習シ−ン等に、BGMとして巧みに取入れられていたのが印象的であった。
モリコ−ネは28年、レオ−ネは29年共にロ−マ生まれと同世代で、60年前後のほぼ同時期に伊・映画界に登場した。
「ローマの旗の下に」(アニタ・エクバーグ、ジョルジュ・マルシャル主演)、「ポンペイ最後の日」(スティーヴ・リーヴス、クリスティーネ・カウフマン主演) 等の歴史劇脚本家を経て監督に転じたレオーネが、その名声の割には意外や僅か7本の作品(内6本がモリコ−ネとのコンビ)しか残さなかった(「Once〜in America」が遺作)のに対し、モリコ−ネは61年の「Fascist」(ウ−ゴ・トニヤッツイ主演)でデビュ−以降今日まで、おそらく映画音楽家としては最多作ではないか、既に330本を超える作品を送り出し、今後も猶続くというのだから驚異的だ。
20本を超えるマカロニウエスタンの他に「アルジェの戦い」(太鼓のリズミカルな繰返しのメロディがユニ−ク)、「死刑台のメロディ」(ジョ−ン・バエズの主題歌が奇麗!、悪役J・M・ヴォロンテが一転、シリアスに無実の死刑囚を好演したのが印象的)、「ミッション」(ロ−ランド・ジェフィ監督が、近世キリスト教の欺瞞に真っ向から挑んだ意欲作。デ・ニ−ロの熱演とイグアスの滝の壮大さと、そしてモリコ−ネの荘厳・哀切な音楽に圧倒される)のようなシリアスな作品もある。
本領はやはりアクション物で、仏のアンリ・ヴェルヌイユ監督と「シシリアン」(ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、&リノ・ヴァンチュラ共演)、「華麗なる大泥棒」(ジャン・ポ−ル・ベルモンド、オマ−・シャリフ共演)、「エスピオナ−ジ」(ユル・ブリナ−、H・フォンダ、ダ−ク・ボガ−ド共演)があり、アメリカではブルック・シ−ルズ売出しの「サハラ」(アンドリュ−・マクラグレン監督)のような駄作にも付合ったかと思うと、
SFマニアの間で熱狂的な評価を得ているジョン・カ−ペンタ−監督の「遊星からの物体X」(カ−ト・ラッセル主演・・・不気味さを巧みに表現したBGMが効果的)、そしてブライアン・デ・パルマ監督の傑作「アンタッチャブル」(ケヴィン・コスナ−、ショ−ン・コネリ−
、デ・ニ−ロ、アンディ・ガルシア共演・・・コネリ−が老警官役でアカデミー助演賞)もある。
日本とのご縁では池田満寿夫が原作・監督の「エ−ゲ海に捧ぐ」(主演女優がイロ−ナ・スタ−ラ・・・後のあのチチョリ−ナだ!)に付き合い、散漫な内容を音楽でカヴァ−。そしてあの心に残る名作「ニュ−シネマパラダイス」(ジュゼッペ・トルナト−レ監督、フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン主演)を盛上げる、切なくも美しいメロディも彼の作品だ。